くーすけこと松野空介は、必ず私が一人のときにやってくる。染岡や半田のどちらかがいる時は、絶対にやってこないのだ。
前に理由を聞いたら「まぁ一週間後には分かるよ」と言われた。待つのは得意なので、とりあえず待ってみることにする。

「おう、名前。昼飯食おうぜ」
「染岡」
「ほらノートと筆箱片付けろ。って、見事に真っ白だな」
「授業寝てるから」
「…まぁ、昔からだよな。でもお前成績悪くないよな…」
「ん?…あれ、半田は」

やっと覚醒。目をこすって辺りを見回すと半田の姿がない。きょろきょろとしていたらくーすけと目が合った。友達と購買に行くみたいだ。
にこっと笑いかけられたので、笑い返すと染岡に不思議な顔で見られた。

「お前、松野と仲良かったのか?」
「うん」
「そうだったのか。今まで仲よさそうなとこ見たことなかったから知らなかったぜ」
「このあいだ仲良く」
「へぇ。あ、半田はさっきの時間にゲームしてたのがバレて呼び出「終わった」らしい」
「半田」
「よ、名前。飯は食べたか?」
「まだだよ」
「じゃあさっさと食おうぜー。あー腹減った」

半田が近くの椅子を引っ張って、私の机の右側に座る。染岡は前の席の…誰かの席に座る。そして私は自分の席。
これが私たちのお昼ご飯を食べる体形なのだ。

「おい名前、片付けろよ」
「うんー」

染岡に言われる通りにノートと筆箱を机の中に入れる。空っぽだからつっかえることなく入った。
そしてコンビニの袋からおにぎりとヨーグルトと棒つき唐揚げを取り出した。いつものメニューだ。
小学校の頃はお弁当を母親が作ってくれていたのだが、毎日弁当箱を家に持って帰るのを忘れて母親に迷惑をかけていた。でもコンビニ弁当は学校に捨てて帰れるから母親も困らず私も重くない。これは小学校高学年からずっとだ。

今日の染岡の弁当はコンビニ弁当で、カツが入っていた。普段はお弁当だけど、今日はお母さんがご飯を炊き忘れたらしい。半田はいつもの青い弁当袋を広げていた。半田のお母さんは料理が上手くて、泊まりに行ったときにハンバーグを作ってもらって食べたんだけど、本当に美味しかった。だから半田のお弁当がいつもうらやましい。

「名前、ヨーグルトにイチゴかけたくないか?」
「いちご?」
「あぁ。イチゴ!」

そういって半田が青い弁当袋から取り出したのは、イチゴのソースだった。これ知ってる。サッカー中継の合間のCMでやってたやつだ。女の子が色んなものにかけていて、とても美味しそうだったのを覚えている。

「いちごソース」
「あぁ、きっと美味いぞ。だから俺も今日ヨーグルト持参ー」
「おそろだね」
「おそろだな」
「染岡はヨーグルトないね。一口いる?」
「いいのか?」
「うん」

半田から受け取ったソースをヨーグルトにかける。綺麗な赤色のソースがヨーグルトの上に垂れる。おいしそーだ。
半分残して半田に渡すと、半田もそれを持参したヨーグルトにかけた。

「美味そうだな」
「俺のは染岡にはやらないからな」
「男と間接なんかしたくねーよ」
「かんせつ?」
「名前は知らなくていいよ」

半田が全てかけ終えると、プラスチックのスプーンで袋の中の残ったソースをかき出す。するとスプーンの上に赤いソースが溜まった。

「はい、名前。あーんして」
「くれるの?」
「あぁ。ほら、あーん」
「あーん」

口を開けてスプーンがやってくるのを待つ。入ったのを確認すると、口を閉じてスプーンの上のいちごソースを舐めとる。すると口の中に甘酸っぱいのが広がった。

「おいひい」
「それはよかった」
「スプーン咥えたまま喋るなよ、ほら口開けろ」
「あー」
「はい、閉じていいよ」
「ん。いただきます」

スプーンが出ていったのを確認して、私は唐揚げの棒を握り食べ始める。
ヨーグルトはデザートだから後で食べよう。…む、今日の唐揚げは脂っこい。



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