「ねぇ」

ぐだー

「ねぇ、」

ぐだー

「ねぇ起きてよぐだらーちゃん」
「んる」
「(んる?)君を起こすのはご法度だってわかってる。けどね、見てほしいものがあるんだ」
「んー…っ」

ゆさゆさと揺さぶられて強制的に起こされる。せっかく気持ちのいい午後だったのに。
誰が起こしたんだよーなんてちょっとだけ怒りながら起きると、目の前には…

「ネコさ」
「ねこさ?」
「ネコさん…」
「あぁ、これ?」

ネコさんがいた。この人は知ってる。名前は知らないけど、席が私よりも前で、ねこさん帽子をいつも被っている…(私の中の通称)ネコさん。
ネコさんは私がネコさんと密かに呼んでいる事は勿論知らず。ネコさんは私が呼んだのは被っているねこさん帽子のことだと思っているみたいで私が呼んだのはネコさん本人であって…って、あれ何だかわけがわからなくなった…、まあいいや。

「うわー僕、ぐだらーちゃんがちゃんと起きたの見たの2回目」
「そう?」
「だって授業中いつも寝てるじゃん。初めて見たのは入学式の部活紹介の時。終わってから一人でいきなり立ち上がるから驚いちゃったよ。2年で一緒のクラスになってからも全然起きなくてさー」
「あ、いつも…寝てるから」
「ははっ。そういえば僕の名前知らないよね?僕は松野空介っていうんだ、よろしくね?」

ネコさんの名前は松野空介というらしい。くーすけ。なんだかふわふわして可愛い響きだなぁ。

「まつのくーすけ」
「そう松野空介。あ、別に下の名前で呼んでくれてもいいよ。嫌だったらマックスってあだ名もあるんだけど」
「くーすけ」
「ん?下の名前がいいの?」
「くーすけ」
「じゃあ決まりだね。僕も名前って呼んでいい?」
「うん」
「はい決まり。これからよろしくね」
「よろしく」

笑うとくーすけも笑ってくれて、頭を撫でてくれる。染岡とも半田ともなんだか違う撫で方。なんていうんだろう、くーすけは上手い。撫でるのが上手いのだ。
あ、そうだ。とくーすけは私の頭から手を離し、反対の手に持っていた紙を机の上に置いた。なんだか見覚えがあると思ったら、昨日作ったサッカー部部員募集ポスターだった。これは確か、廊下に貼ったやつだ。

「なんで持ってるの?」
「…ほら見てここ」
「ん」

くーすけの細くて長い指を辿っていくと…「アッカー部部員募集してま。はのしいでのから入ってくだすい」あら。

「他のポスターは普通だったのに、これだけ誤字ありまくりで朝から笑っちゃったよ。眠かったの?」
「やっちゃった」
「ははっ、君って本当に面白い。僕ね、ずっと友達になりたいなーって思ってたんだ。でもずっと話しかけられずじまいで」
「ん?」
「ほら、君っていつも寝てるし、それに隣にはいつも例の二人がいる」
「染岡半田」
「そう。絶対3人で一緒ーって感じだからさ、話しかけれなかったんだ」
「くーすけ」
「ん、何?」
「友達だから」
「え…?」
「私とくーすけはもう友達だから、いつでも…話しかけて。私、眠くて自分から話しかけることはあんまり、ないけど、でも」
「…ありがと。じゃあ今度から話しかけるよ」
「うん」

くーすけが首を少しだけ傾けて笑う。すると一緒に、ねこさん帽子も少しだけ傾いた。







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