あのサッカー部に入ってもう数ヶ月が経った。
半田の予感は的中した。部員は5人。そのうち一人はマネージャーの木野。グラウンドを貸してもらえなかったのだ。
結局部室前かグラウンドの脇の通路でボールを蹴る毎日だった。

だけど、名前はとても楽しそうだった。毎日完全下校の6:30までずっと基礎練習をしていた。そのため、疲労がすごく授業中は殆ど寝ていたけど。いや、まぁ昔からだけど。そのためクラスではすぐに「ぐだらーちゃん」という名称で呼ばれるようになった。

キャプテンの円堂と名前はすぐに仲良くなった。もちろんマネージャーの木野ともだ。
二人とも名前に優しくしてくれて、半田と染岡はとても安心した。

夏は野球部の練習場の外を走ったり、秋には部室の傍で赤や黄色の葉が落ちる中ボールを蹴り、冬には雪降る中寒いのを我慢してひたすら練習した。
そしてまた春がやってきた。

名前が酷く心を痛めた、あの入学式での部活紹介。今回はサッカー部も参加することになった。
部活紹介はキャプテンの円堂と少しだけ有名人だった「ぐだらー」な名前がすることに。

二人はボールを蹴りあいながらサッカーのいい所をたくさん挙げていく。他の部活のように面白い劇や面白い話などは無かったが、その楽しそうな姿がとても印象に残った。


5月に入ってやっと新入部員が現れた。
中々新入部員が現れないこと、そしていつまでも基礎練習ばかりなことにイライラしていた染岡と半田も、その時は嬉しそうに笑ってその一年生達を迎え入れた。

その週の日曜日。木野が持って来てくれたジュース、染岡と半田が買ってきたお菓子。名前と円堂が飾り付けた部室で歓迎会をした。
名前は後輩が好きなようで、入ってきた四人をとても可愛がった。


…だが。




それから一ヵ月後。円堂の知り合いでよくサッカー部に顔を出してくれた風丸の計らいで、陸上部の女子更衣室を借りて体操服に着替える名前。
荷物を持って、陸上部の人たちにお礼を言うとすぐさま部室にかけていく。


「円堂」
「あ、名前」

サッカー部の部室の前でため息をついていた円堂にかけよる名前。


「今日は何で体操服なんだ?」
「部室…汚いから掃除。秋に任せたら可哀想」
「でも練習できなくなるぞ?」
「うん。だけど、部室が可哀想」
「…そうだな。じゃあ俺も手伝うよ」
「いいよ。円堂は小さい子たちと約束あるでしょ?秋にも言わなくていい」
「そっか。ありがとな名前!じゃあまた明日練習しような?」
「うんまた明日」

ボールを蹴りながら去っていく円堂。それをしばらく見守り、そして部室を見る。
分かっている。部員は8人。サッカーは11人でするもの。グラウンドが借りられないから少人数の紅白試合もできない。基礎練習ばかり。
ボールを持っていれば馬鹿にされる。…一番の原因は目標が無いことだ。
わかってる。でも、それでも名前は嫌だった。

ガラリと部室を開けると、ここは何部ですかというくらいな有様。


「名前じゃねーか」
「名前先輩こんにちは!」

一ヶ月ほど前は、自分が部室に入ると声をかけてくれていた部員達。今ではこちらに目をやるだけで何も言ってこない部員達。名前から挨拶をしても、おうとかああとかそのくらい。今では挨拶もしたくなくなってしまった。

名前はお菓子のゴミが散乱している床を歩き、自分のロッカーを開けて荷物を入れる。
そして掃除用具入れを開けて箒とちりとりとバケツを取り出す。雑巾は…ああ、バケツの中だ。

箒とちりとりをロッカーに立てかけてバケツを持って部室の外にある水道まで歩く。
蛇口をひねって水を溜めていると後ろから声をかけられた。


「名前、どうしたんだ?」
「あ…風丸。部室汚いから掃除」
「そっか」
「風丸は?」
「今日は部活がないんだ」
「…そっか」

きゅっと蛇口を閉めてバケツを持つ。結構重かった。すると横から手が伸びてきて、バケツを取り上げられた。

「持つよ」
「え、…ありがと」
「あと手伝うよ。一人でやるんだろ?」
「うん」

風丸はサッカー部の事情を知っている。…いや、まぁこの学校の生徒は殆ど知っているのだが…。でも風丸は一年の時からランニングに付き合ってくれたり、彼の大会に応援に行ったりしたから、サッカー部とは結構濃い関係。2年生になってからは顔を出すこともなくなったんだけど。

風丸と一緒に部室に行くと、先ほどと全く変わっていない光景。


「…話には聞いていたが酷いな」
「…うん。やろう」
「そうだな」

床に散乱したゴミを拾い、窓のを拭き、ロッカーを拭き、机を拭き。途中部員達が何か言いたそうに見てきたが、それを無視して風丸と二人で掃除を続けた。
居づらくなったのか一年生たちは掃除を始めてから数分後に部室を去っていき、掃除が終わる頃に残っていたのは半田と染岡だけだった。

「風丸ありがとう」
「あぁ、これくらい何ともないさ」
「風丸もう帰る?」
「そうだな、もう帰るぜ」
「じゃあ一緒に帰ろう」
「え…別に、俺はいいけど…染岡と半田は?いつもお前と一緒に帰ってるだろ」
「いやだ」
「え?」
「今日は一緒に帰りたくない。風丸、着替えてくるね」

名前はそう言うと荷物を持って部室を去った。
風丸は一度半田と染岡を見て、何も言わずに部室を去る。残された染岡と半田は、眉をしかめただけで何も言うことはなかった。




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