「みんなー、こっちから出られそうよ!」
イリアが先に進み、出口を発見したようだ。私たちを振り返り、手招きをする。
ルカが笑顔で振り返したが、そんなルカの表情はみるみるうちに青いものへと変わっていった。
それもそのはずだった。イリアの後ろから、黒ずくめの男が長い銃を持って近づいてきたからだ。
全身黒ずくめ、体中に巻き付けてある弾丸。顔には深い傷跡…。男が数々の戦場を潜り抜けてきたのだということが伺える。
…何よりもまず、オーラが一般の兵士のものではなかった。
「お、お前はっ!」
スパーダが驚いたように男を見て言葉を発した。どうやら顔見知りのようだ。
イリアやルカも驚きながら男を見つめている。
「何だっけ、名前?」
この場に合わない緊張感の無いスパーダのボケが炸裂する。…笑えなかった。
現にイリアもルカも苦笑いしている。次に口を開いたのはルカだった。
「確かリカルドって呼ばれてた…」
「またガキか。いつから戦場はガキの遊園地になったのやら」
「ねぇ、名前。今の聞いた?遊園地って、あの人面白い表現をするのね」
「あー…そうだね」
「まあいい。…アンジュという女を探している。知らんか?」
「はぁ?なんであんたに教えないと…」
「私がアンジュです」
3人が必死になってアンジュ姉さんを後ろに隠していたのに、アンジュ姉さんはそんな3人の気持ちを知ってか知らずか…前へ進み出てしまった。
隣にいた私はお口あんぐりだ。
「俺はリカルドという。君の身柄を確保するように依頼を受けているんだが」
「あいにく連れがおります。ご一緒してもよろしいかしら?」
「いや、そんな問題じゃない!大体何でアンジュ姉さんがあなたに着いていかなくちゃいけないんですか?」
私がアンジュ姉さんを庇うように前に出ると、リカルドさんは一瞬だけ目を見開いて私を見た。
そして、「お前…いや、まさかな…」と呟いた。だからさっきから何だってんだよ。
「あいにくだが企業秘密だ。…それにエスコートできるのは君だけだ。ほかのガキの面倒まで見れん」
「あら、残念ですね。でしたらお断りします」
「だとよっ!消えな、おっさん!」
「…教えてやるガキ。いい大人は出来ない仕事を引き受けたりはしないもんだ。そして、子供の我がままを厳しくしつけるのも大人の役割さ」
「こ、この前は見過ごしてくれたじゃない!今回はダメなの?」
するとリカルドさんはルカを睨み付けて、銃を触る。ルカの体がビクリと震えた。
「いいか、ガキ。前にも言ったが俺は仕事中だ。アンジュを連れて行くという契約を結んでいるもんでな。…契約には逆らえんだろ?ん?」
なんだかこの人の言い方、いちいち腹が立つな。…子供だからって馬鹿にするなよ。
私は槍を構えて、リカルドさんを向く。
「アンジュ姉さんは絶対に渡さない」
「どうあっても連れてくんだってんなら、オレ達を倒してからだ!」
「フン、力ずくが望みか?あまり趣味ではないが、たまには趣向を変えるのもいいだろう」
「…止めなさい、名前。…リカルドさん、でしたっけ?では、こうしましょう」
アンジュ姉さんが、臨戦状態だった私とスパーダの間をするりと潜り抜けてリカルドさんの前に立った。
嘘…、アンジュ姉さん…行っちゃうの…?
「い、いやだ!いやだよ、アンジュ姉さん!」
「ふふ、大丈夫よ。名前。…リカルドさん、こちらを」
アンジュ姉さんが懐から何かを取り出した。そしてそれをリカルドさんに差し出す。
「!!」
「こちらを差し上げます。いかがでしょう?」
その瞬間のアンジュ姉さんの極上の笑みは、一生忘れることが出来ないだろう。