「この旅も、終わりだね」
「なんだか不思議だな。ずっと続くと思ってた。…皆と一緒に、ずっと…」
「フン…、旅などいつでも出来るさ。いくつもの旅が重なって、それが人の歩んだ人生の軌跡となる。その時々により道や目的地は異なるだろうし、同行者も違うものだ」
「…そうだね。旅の終わりを惜しんでちゃ、次の旅は楽しめない」
「……みんなっ、これからどーすんの?」
「…グリゴリの連中が気がかりでな。ガードル亡き指導者不在の中、混乱している事だろう。俺があいつらを解放してやりたい。…そんなところだな」
「そらまた過酷な道だな。あんた、貧乏クジじゃねェ?ソレってよォ」
「はっ、所詮ガキにはわからんよ。責任を果たす喜びをな。……では、世話になったな」
「…リカルドさん。あなたを雇ってよかった。心の底から、そう思っています」

アンジュ姉さんがそう言うと、リカルドさんはフッと笑い、それから人ごみの中に消えていった。

「バイバイリカルドのおっちゃん!また遊びに来たってな!」
「えーっと…エルは?」
「そやね、とりあえず、ウチが面倒見てた子らの様子見てこなアカンね」
「…オレの秘密基地、大事に使ってくれよ?」
「あ〜、でもそないに長居する気ないで?いつまでもあんな所おられへん」
「え?どこ行く気なの?」
「決まっとーやん。あの子らにも人生あんねんで?ウチが稼いでガッコ行かして自分で稼げるようにしたらんとアカン」
「…いい考えがあるよ!じゃあ、あたしが学校建てたら入学させてあげる!無料で!」
「そらエエ話やなぁ。ほな、そん時、お願いするわ。…じゃあ、ウチもう行くけど…。ルカ兄ちゃん、体そんな強ないねんから、あんま無理したらアカンで?」
「はは、大丈夫だよ」
「一人で落ち込んだらアカンで?周りにエエ人おんねんから、とっとと相談しぃや?」
「もう、分かってるったら」
「なんか心配やわぁ…」


エルは少しだけ笑った後に、ぐるりと皆を見渡した。
一人一人の顔をきちんと覚えるように、じっくりと。それから、いつも通りニッコリと微笑んだ。そして別れの挨拶をした後、工業地帯の方向へ走っていった。


「さ〜てとぉ、わたしはナーオスに戻って、大聖堂を建て直さなきゃ。…ま、わたしが壊したんだしね」
「そんなお金あるの?」
「多少の蓄財はあるけど、あれで足りるかなぁ…。まずはパトロン探しをして…」
「アンジュ、ここにいると聞いて来ました。よろしければ、あなたの目指す復興のお手伝いをさせてもらえませんか?」

ここで突然聞こえてきた声に驚いて振り返ると、テノスのスカシ…いや、アルベール…さんがいた。何故来たし。


「やった、パトロン発見!」
「(シィーッ!イリア!)……わたしでいいの?わたしの出来ることなんて、たかが知れていると思うけど…」
「僕は…、前世に捕らわれてそのまま大惨事を起こしてしまうところだった。あなたの説得がなければ、どうなっていたか…。だから恩返しがしたいのです。僕と共にテノスに来てもらえませんか?」
「テノス…。そのね、あの気候や食べ物。わたし、わりと気に入っています。でも、お手伝いいただけるなんてまるで夢のよう。参りましょう、テノスへ」
「は、はあああ!?ちょ、姉さん…え、え…?」
「スパーダくん、名前のこと、よろしくね?」
「ああ、分かってるよ」
「え、なんでスパーダ普通に返事しちゃってるの?ちょ、姉さん…ま、待ってよ!」


え、え、え、…どうなってるの?
姉さんはアルベールさんに着いていってしまうし、…わ、私はどうすればいいの?というか、スパーダによろしくってどういう意味…?

突然のことに混乱していると、右手にスパーダの手が触れた。



「じゃあオレらも行くわ。…ルカ、近くに住んでるからいつでも会おうな。イリア、お前とは気が合って楽しかったぜ」
「あたしもなかなか楽しかったわ。…名前を幸せにしてあげなさいよ〜?」
「ふふっ、また皆で集まろうね。僕の家もすぐそこだから、いつでも遊びに来てよ」
「ああ、ありがとな。…おい、名前。何固まってんだよ、お前、挨拶しとかないで良いのか?」
「…え、え…あ、二人とも、あ、ありがとう…?」
「うん、元気でね名前!」
「また会いましょ!」
「じゃーな」


スパーダが私の手を掴んでいないほうの手を上げて、ルカとイリアに手を振る。
そして、私を引っ張りながらレグヌムの郊外までやってきた。いまだに状況がつかめない…一体どういう事なの…?

すると、とある一軒のこじんまりとした家の中に入っていくではないか。…ちょ、



「ちょっと待ってよスパーダ!ここどこ?何で?い、意味がわかんない…!」
「まあとりあえず入れよ」


スパーダに促されるまま家に入る。中はキッチンと大きな机、椅子、お風呂、ベッドなどの生活必需品しか置かれていなかった。



「リカルドのオッサンの知り合いの家。…まあ元、だけどな」
「……ど、ういう…」
「オッサンが安値で譲り受けたらしい。お前がレムレースでハスタを埋葬してる時に、オレが家が欲しいって言ったら、ちょうど良い物件があるって」
「そ、そう…」
「ここで一緒に暮らさねェか?」
「…は?」
「だから、ここで一緒に暮らそうぜ?そしたら、毎日一緒にいられるだろ」
「…え、ちょ、ちょっと待って…」


いきなりの告白に頭がいっぱいになる。え、え、え…一緒に暮らすって…スパーダと私が?二人で、一緒に?
え、え、でも…


「スパーダ、お家のことは…」
「ああ、まあ気にすんな」
「だ、駄目だよ!ちゃんとお家に帰らなきゃ…!」
「…顔は出すさ。んで、そん時にお前のことも紹介する」
「え、」
「で、自立する。…オレさ、兄貴と仲悪いって言っただろ?でも、そん中にまだ比較的仲良いヤツがいてさ、そいつが海軍士官やってんだ。ソコにでも放り込んでもらおうって思っててよ」
「う、うん…」
「そこで出世して実家に認めてもらって、自分の屋敷を建てて、……でもそれだけじゃ駄目だ」
「……」
「…名前に、支えてもらいたい。…出来れば、一生」
「…っ、スパーダ…」
「……お前と一緒に、生きたい」



スパーダはそこまで言うと、頭をガシガシ掻きながら照れくさそうに俯いた。
…彼がここまで考えてくれていたなんて…。私は、胸の奥が熱くなっていくのを感じた。

スパーダの手を取り、自分の指と彼の指を絡ませる。



「私も、スパーダと一緒に生きたい」



そう言うと、私はスパーダに抱きしめられた。







世界は平和になった。
失ったものも、得たものもたくさんある。その全てが、私の糧となって…未来へと繋がっていくのだ。











fin






20120205




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