浄化されたレムレース湿原。
遥か昔のように湖が寄り集まった、とても美しい場所に戻っていた。
その湖の傍ら、少し地面の隆起した場所に、持っていたマーガレットの花を置く。
「どうか、安らかに眠ってください」
創世力を使った後、お兄ちゃんの体をレムレースまで運んだ。
ここは私と私の家族の思い出が詰まった場所。どうしても、お兄ちゃんをここで埋葬したかった。
あの時とった、お兄ちゃんを倒すという判断が正しかったのかは分からない。
本当にお兄ちゃんはゲイボルグに呑み込まれていたのか、お兄ちゃんが何を思って攻撃をしてきたのか、何を思ってあのような態度で接してきたのかも、もう分からない。
私を守ってくれたお兄ちゃん、私を狂気に引きずり込もうとしたお兄ちゃん…どちらも知っているからこそ、私は選択をしなければならなかった。
…この道を選んでしまった今、私にできることは…、お兄ちゃんの魂を背負って生きていくことだ。
私は忘れない。実の兄を倒してしまったこの罪を、そして自らが進んでこの選択をしてしまったことを。言い訳なんてしない。私は、死ぬまで背負い続ける。
「……また来世で会いましょう」
その時に、たくさんお話を聞かせてね。
今度は、戦争がない世界の兄妹として…お会いしたいです。
「みんな、お待たせ」
レムレース湿原の外で待ってくれていたみんなのもとへ駆け寄ると、心配そうな目で見られた。
だけど私がニコニコとしていると、皆も察してくれたのか特に何もいう事は無かった。
「じゃあ、マムートから船でレグヌムに向かおうか」
「久しぶりのレグヌムねーっ、前行ったときは誰かさんのせいで散々だったけど!」
「…幾重にも詫びよう」
「ぷっ、あははははっ!」
なんだか、笑ったのは久しぶりな気がする。
世界がこんなにも美しく見えたのは、久しぶりな気がする。
広い空を仰ぎながら、私はこの旅で出会った仲間たちを見回した。
…長いのか短いのか、よく分からない旅だったけど…。私はこの旅で大切なものをたくさん手に入れた。
もう終わってしまうのは、本当に惜しいけれど。…だけど、私たちは元の生活に戻らなければいけない。…スパーダとも、毎日会えない生活が続く…かもしれない。だってすんでる町が違うし…。ナーオスとレグヌムって片道半日かかるし…。
それに、スパーダは…お貴族様なのだ。
今までは旅の仲間だったけど、これからは孤児と貴族…身分に差が出る。…お貴族様としがない庶民が釣り合うわけが、ないよね。…絶対に周りに反対されちゃう。
はぁ…なんだかそれを考えたら、レグヌムに着いてほしくなくなってきた。
…だけど、無情にも警笛が鳴る。市街地が見える。…レグヌム到着だ。
「?どうした、名前。元気ないじゃねーか」
「…ううん、何でもないよ」
「?」
スパーダに声をかけられたが、今は他の事を考える余裕なんてなかった。
20120205