「おのれェェエエ…。この無念、また来世に持ち越してくれる!」
「勝手にしたら?いちいち付き合ってられないっての!」
「イリアの言う通りだよ。もし、生まれ変わったのなら、その人生を楽しめば良い」
「黙れ…黙れ黙れ…黙…れ……」
マティウスは…それから顔を上げることはなかった。
それを傍らで見ていたチトセさんは、おもむろに持っていた刀を取り出した。…まさか…!
止める暇さえなかった。刀はチトセさんの腹に突き刺さった。…っ!
それから震える手でそれを引き抜くと、チトセさんはマティウスの遺体に寄りかかるように縋った。
「私も共に参ります…。来世こそ、来世こそ…必ず…」
そう言ったきり、彼女は動かなくなってしまった。
前世に囚われた人々は、皆こうして死んでいく。…私は、現世に私のことを思ってくれる人がいてくれたからこそ…前世に囚われずにすんだ。…この人たちは、そんな人は一人も存在しなかったのだろうか…?
「バカな女…。死ぬ事なんてないじゃない…」
「…かもね。でも、心はずーっとアスラに寄り添っていた。彼女なりに幸せだったんじゃないかな…」
「あたしにはわかんない…」
「……んで、創世力ってのはどうなったんだ?」
「…ああ、あるよ」
ルカの指差す先には、光り輝く創世力があった。…やっとここまで来たんだ。…やっと、…やっと。
皆で創世力を取り囲むように立つ。
「それで…、お前はこれをどうするつもりだ?」
「欲しがる人に高値で売りつけるんもエエんちゃう?」
「えーっと、エル?」
「ウソやーん。そんな怖い声出さんといてぇや」
「あ、あはは…」
エルとアンジュ姉さんのやり取りに苦笑いする。
なんだか冗談っぽくなかったぞ、今の…。
「封印するか?そういうのもアリだと思うぜ」
「そうだな。それもいいだろうが…」
「………決めたよ。天と地、二つに隔ててしまったから、世界は均衡を失った。だったら元に戻すのがいいよ」
「ま、アスラも望んでた事だもんねぇ」
「アスラは関係ないよ。ただ、こうするのが一番だって、そう思ったんだ」
「わたし、思ったんだけど…“献身と信頼、その証を立てよ、さすれば我は振るわれん”この言葉って、原始の巨人の願いだったんじゃないかな?」
「ああ?願いってなんだよ」
「巨人さんはね、寂しかったの。楽しくにぎやかになるように、世界をお創りになったのでしょ?みんなが仲良しならば、世界はより発展するっていう純粋な願いが込められてるのよ、きっと」
「ああ、それはエエなぁ…。そう聞いたら、その原始の巨人、ちょとカワイなってきたわぁ」
「…つまり、ルカの願いは巨人の願い。これでは誰も異を唱えまいよ」
天地が融合すれば、この世界は本来の姿を取り戻すことが出来る。
…皆に、笑顔が戻るんだ。だとすれば、ルカの言う通りにしたほうが良い。
私たちは、ルカに向かって頷く。
「…うん、原始の巨人が寂しがって、悲しんだりしない世界にするために、ね。……じゃあ、イリア」
ルカから指名されて、イリアの頬が少しだけ赤くなったのが見えた。
だけどそれを隠すように、イリアは前に進み出ておどけてみせる。
「あら、あたしでいいの?また裏切っちゃうかもよ〜」
「もうっ、止してよっ!…他に相応しい相手なんて、考えられないんだから…」
「あ〜ら、遠まわしな言い方っ!ん〜…、あんたらしいっちゃあ、あんたらしいけど」
「…えーっと、じゃあ思い切って言うけどさぁ…、ぼ、僕は君が…その……す」
「えーっ?何ぃ?聞こえなーいっ!」
ルカの告白をイリアの大声が遮ったその瞬間、辺りが光に包まれた。
『天地を一つに、すべてのものに祝福を』
20120205