黎明の塔…。
はるか昔、天から追放された人々が天に還ることを夢見て建設された塔だと言われている。今ではアルカ教団の本拠地となり、現在では多くの巡礼者が訪れるようになったと聞く。
その塔の下は戦場になっており、信者と王都兵が戦いを繰り広げていた。


「フン…浅ましい事だ。創世力のために、その価値すら知らぬ無辜の民の血を流させようというのだからな」
「ソレにしてもよォ、こん中掻き分けて行くのか?面倒臭ェなっ!ったく!」
「なりふり構っていられないよ、進もう」

ルカの言葉に頷き、私たちは黎明の塔の最上階に続く長い長い階段を上り始めた。
途中で出くわす王都兵とアルカ信者を倒しながら、進んでいる途中に、開けた場所があった。ざしゅっと、嫌な音がした。その音と同時に、近くの壁にアルカ信者の亡骸が叩きつけられる。隣にいたスパーダが吼えた。


「ハスタ…!」
「やあ、デザートの時間だね。いささか粗食というか粗敵に喰い飽きてしまいましてな。子供の笑顔とオレの心の平安のため、面白可笑しく殺されちゃってもらえませんか?OKですか?」
「お兄ちゃん…!」
「おやおや我が妹よ、まだこんなヤツらといたんだねぇ」
「…お兄ちゃんは、ゲイボルグに取り込まれてしまっているの?」

私がそう聞くと、お兄ちゃんは愉快そうに笑いながら私のほうまで歩み寄ってきた。
スパーダが私を庇うように前に立った。だけど、私はそれを制してお兄ちゃんに近づく。


「結局、狂気を選ばなかったんだねぇ」
「…私は、グングニルじゃないから」
「前世も現世も関係ないだろぉ。武器なのに、命のやり取りを楽しめないのは立派な病気だぜ?」
「……私は、名前・エクステルミだから」
「……………、かわいそうな妹だ。こいつらに感化されたせいで、本当の自分を見失ってしまったのか…。…じゃあ」

お兄ちゃんは持っていた槍を真っ赤な舌でペロリと舐めると、すぐに挑発的に槍を私たちのほうへ向けてきた。


「こいつらと共に一思いにコロシテあげるぜぇ?それがオレにできる最後の妹孝行だからなあ」
「っ、……!」
「兄妹のコロシアイ…良い響きだぴょん」


私が武器を向けると、お兄ちゃんは先ほどよりも嬉しそうに笑う。
…本当は、お兄ちゃんと戦いたくなんてなかった。…でも…


目の前にいる狂気に呑まれた兄の姿を見る。
あの優しかった頃の兄とは別人だ。…だけど、でも…私たちはたった二人の兄妹だ。
私が助けてあげなくちゃ、いけないんだ。妹として、前世に囚われた兄を、救わなければならないんだ。



ぎゅっと武器を握り締め、それから力強い瞳で…ハスタを見た。




「名前、…」
「…」



スパーダに心配そうに声をかけられる。私はそれに大丈夫だという意味を込めて一度だけ頷いた。
するとスパーダも武器を取り出して、それからハスタに向って叫んだ。



「お前との縁、今度こそ最後にしてやる!」




そう、ここで終わらせなければいけない。大好きだったお兄ちゃんのために。







20120205





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