「ま、ボンボンが見たら驚いて飛び上がるよーなボロ家だけど」

嬉しそうなイリアの声に振り返ると、そこにはルカがいた。よかった…無事だったんだ…!
皆が口々にルカの名前を呼ぶと、ルカは少しだけ恥ずかしそうに俯きながら「ただいま」と言った。
すると二人の後ろに人影が見えた。…あの子は…


「連れてんの、シアンちゃうん…」
「天空城から僕を地上へ運んでくれたんだ。手当てをしてあげてよ」
「わかったわ、こちらへいらっしゃい、シアンくん」


姉さんが手招くと、珍しく素直にその言葉に従うシアンくん。
シアンくんの手当てが始まると、ルカが私たちのほうを心配そうに見た。


「それで…みんなはケガとか大丈夫?」
「問題ない。…丁度ここに不時着してな。さてどうしたもんかな、と考えていたところだ」
「創世力も、マティウスの手に渡ってしまったし…」
「…この村も深刻な状況なのよ」
「何かあったの?」
「先日からアルカの本拠地とされる黎明の塔へ王都軍が侵攻を開始したようだ。…その道すがらにあるこの町を通過していくのだが…」
「その際に村の物資が略奪されたりしてねぇ〜。ほんっと迷惑っ!」
「そうなの…」
「枢密院の奴らはマティウスに渡った創世力を奪い取るつもりなのだろう。…で、我々はどうするか、だが」
「…決まってる。僕らで取り返そう」
「そーよ!他人の思惑なんかどーでもいいっての!あたし達が創世力を手に入れるんだから。誰にも渡してやるもんか!」
「ああ、そうしよう。それが一番マシな選択だ」


リカルドさんが頷くと、ルカも、そしてイリアも、…皆が頷いた。
向かうは黎明の塔。…これがきっと最終決戦だろう。

…もしかしたら、お兄ちゃんもいるかもしれない。それだけが、少し不安だったけど。…ううん、あれこれ考えても仕方ない。私たちは、行かなければいけないんだ。














「黎明の塔はここから南東の方向よ」


サニア村を後にした私たちは、地元民であるイリアの案内で黎明の塔へ向っていた。
シアンくんも一緒に来たそうにしていたのだが、何分ケガが酷いため、イリアの家にしばらくの間いてもらうことになった。

慣れない砂漠を歩いていると、ふとエルマーナが声をあげる。



「せやせや、大事な事言うの忘れとってん」
「何よ、突然…」
「天上は消滅したわけやない。地上と融合しててん」


……、え?


「はあ!?」


エルの突然のカミングアウトに、皆が同時に声を漏らした。
そんなみんなの様子がおかしかったのか、エルが笑いながら答える。


「ヴリトラはな、ぎょーさん魂が地上に落ちていくのを見てん。天上を支えていた力も地上へ光になって降り注いでいった。…消えたんやない、地上に向って行ったんや。きっと一つになろうとしてやろな」
「それって、どういう…。……あ、…それって…、あたしが願ったから?」
「イナンナの、願った…?」
「あ!!アスラの命を犠牲に、創世力が発動した…?」
「そして、アスラもイナンナを殺害した…。これも、発動の条件を満たした…つまり…」
「アスラとイナンナの願いが同時に叶ったっちゅう事かな。…アスラの“地上と天上を一つに”イナンナの“融合への拒否”。この二つが同時に発動したせいで、ムチャクチャになってもうたんちゃう?」
「天は地上に重なり合っている。しかし互いに結びついていない…。だから色々不都合が生じたのね。…レムレースの湿原の大地に縛られていたラティオの民たちも…それが原因だったのか…」
「不完全な世界、か」
「あ〜あ…、やっぱあたしのせい…。あたしさえ余計な事しなけりゃ、なーんにも問題無かったのよねぇ…」
「…さっき、僕が聞かれた事をそのまま問い返すよ。…君はイリアだろ?イリアは僕らに悪いことした?イナンナの行為を君が恥じ入る必要なんてない。僕の知ってるイリアなら、きっとこう言うよ。それがどーしたってのよ!」
「そうよ、殊勝なあなたなんて、イリアらしくないでしょ?後先考えず、猪突猛進しなきゃ。わたしたちなら何かが出来る。せっかく天術や記憶っていう前世の恩恵があるんだもの。何かしないともったいないでしょ?」
「そーだぜ、オレらにゃもう一仕事残ってんだ。創世神の力をツマらねェヤツラに渡さないってのも、立派な責任の果たし方だぜ」
「長い人生、人は失敗を糧にする。俺たちはさらに前世分の失敗からも学ぶことが出来るのだ。…アニーミ、落ち込むな、歩け!」
「さあ、僕たちの後始末をしよう」
「…フンだ。あんたらに…言われるまでもないっての!…見てなさいよ、マティウス、オズバルド!先に手に入れて、自慢気に見せびらかしてやるもんね!」
「ふふっ、イリアらしいな。ねえ、ルカ」
「うん、それでこそイリアだ。…さあ、行こう!」





20120205




「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -