ルカを置いて天空城から脱出した私たち。だが天空城の崩壊の影響で上手く舵が取れず、不時着した先は砂漠だった。
このサニア地方はイリアの故郷らしいので、とりあえずイリアの案内で私たちは彼女の家にお邪魔させてもらっていた。

イリアのお母さんに出してもらったお茶を飲みながら、私たちは今後についてを考える。…だけど、流れる空気は重かった。
ルカを残してきたことへの罪悪感。そして真実を知ってしまって、それぞれ思うところがあるのだろう。…会話が成り立たない。


中でも一番気になるのが…。
部屋の隅で固まったまま動かない、イリアだった。…きっと、前世のことを気にしているのだろう。…その気持ちは、よく分かる。分かるからこそ、私は今イリアと会話をすべきだと思った。



「イリア」
「…名前」
「少しだけ、話さない?」
「…うん」


いつもより覇気の無い声で返事をして、立ち上がるイリア。
そして、私たちは気候のせいか空気の乾いた外に出た。




「…名前、あたし…ずっとグングニルを騙してた」
「……」
「…イナンナは、センサスに渡る本当の理由を、グングニルに話していなかった。…グングニル…親友には、汚い自分を知られたくなかったの」
「…グングニルは、騙されたなんて思っていないよ」
「…、あたしが裏切ったから…グングニルはデュランダルを殺してしまったのよ、ね…」
「それは違うよ。グングニルにも、デュランダルを殺したいっていう狂気の気持ちがあったの。決してイナンナのせいじゃない。…それに、イナンナがセンサスに渡らなければ、グングニルはデュランダルに出会えていなかったしね」
「…ねえ、名前。あたし、怖いの。全ての原因が、あたしだったって思うと…」
「……イリアじゃないよ」
「…だけど…っ」
「前世は、関係ないよ。イリアはイリアだもん。イリアは誰も裏切ってない」
「……」
「きっと、ルカだってそう思ってくれているはずだよ」
「…ルカ…」
「…ルカも絶対に帰ってくるよ。…迎えに行ってあげたら良いんじゃないかな」
「……うん、…うん!」


イリアは何度か頷くと、そのまま村の入り口のほうへ駆けていった。
イリアを見送り、溜息をつく。…すると、タイミング良くイリアの家のドアが開いて、スパーダが出てきた。



「スパーダ…聞いてたの?」
「悪ィ。…どうしても気になってな」


スパーダは私の隣に立つと、ぽつぽつと話し始めた。



「お前がさっきイリアに言ったように、前世は前世だ」
「…うん」
「でもオレは…、デュランダルは前世でグングニルを最後まで守ることができなかった。結局、グングニルは狂気に呑まれてしまった」
「……」
「…前にも言ったが、オレはお前を絶対に守る。狂気に呑まれそうになったら、それ以上に愛し、守ってみせる。デュランダルとグングニルのようになるのは、御免だからな」
「…じゃあ、」



じゃあ、私も変わらないといけない。
グングニルも私も、愛を与えてもらうばかり…受身ばかりだった。何かを変えなければならない。

あの頃と違って、私には肉体がある、あの時と違って、もっと心が豊かになった。大切な人たちもたくさん増えた。
だからこそ、今度は私が皆を守らなくちゃいけない。アンジュ姉さんもイリアもルカもリカルドさんもエルもコーダ君も、…スパーダも。


そう言うと、スパーダは少しだけ照れくさそうに笑った。



「心に剣を持ち、誰かの盾となれ…」
「スパーダの家の士道訓?」
「ああ。…オレはこれをずっと指針としてきた。…オレが剣になって、誰かを守る。…それだけで良いって思ってた」
「……」
「でも、誰かに守られているからこそ…オレも誰かを守ることが出来るんだな」
「スパーダ…」
「オレの背中、任せたぜ」
「…うんっ!」





ねえ、グングニル。
あなたが私の中にいた理由がわかったよ。…愛と狂気の魂が宿った体。グングニルの最期が、あんなにも疑問と快楽と絶望に満ちたものだったから…答えを探していたんだよね?
私自身も、心の奥底でずっと考えていた。本当の愛とは何なのか。

スパーダとの出会いで、たくさんの事を感じたし、経験した。そして、分かったの。
愛とは受けるだけものではなく、与えるもの、そして分け合うもの。

お互いがお互いを守りあって愛し合うことが、本当の愛なんじゃないのかな。



狂気も、確かに私の一部。だけど、もう怖くない。
本当の愛の意味が分かった今、恐れることは何もなかった。



隣にいるスパーダの手に、自分の手を絡ませる。そこから温もりが伝わって、全身に広がり、満たされる。





ありがとう




胸の奥から微かに聞こえた声。心の中で、こちらこそ…と呟くと誰かが笑ったような気がした。






20120205




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