「…」


思い出した。
私は、この手でデュランダルを殺してしまったのだ。イナンナの死を理由にして、狂気に呑まれた私は大切だった人を殺してしまったのだ。
一番愛おしい人を、殺したかった。その快感を全身で感じたかった。

狂っていると、自分でも分かっていた。だからこそ、その欲望をいつも胸の奥に押さえ込んでいた。
だけど、イナンナが目の前で殺されて、そのイナンナを突き刺していたのがデュランダルで。私は一方的にアスラがイナンナを殺したのだと思い込み、理由を作ってデュランダルを殺した。本当は、イナンナが先にアスラに手を出したのに。イナンナが、デュランダルを使ってアスラを刺した後、アスラは自分の体からデュランダルを抜き、そしてイナンナを刺した。…そして二人が絶命した後、グングニルがデュランダルを殺し、そしてグングニルは快楽と悲しみの中、天上崩壊と共に息をひきとったのだ。



「そんな…。そんなの…嘘、でしょ?…嘘…うそ、うそうそ!!いやあああああーーーーー!」
「イナンナの裏切りが魔王アスラの魂に絶望と憎しみを刻んだ。…そして、私が生まれた」
「じゃあ…、僕はなんなの?」
「お前はアスラの迷いに過ぎぬ。思い出すのだ!大義をはばまれた無念を!」
「ああ…あぁ……。そんな…。……天上を滅ぼし、みんなを不幸にしたのが…、僕…?…僕は、どうすれば?…ぼ…く……は………」
「さあ、行こう。我が半身よ。我々にはやる事がある」
「さあ、参りましょう。私はおふた方の忠実なるしもべ。決してどこかの女のように裏切ったりはいたしませぬ」

マティウスとチトセさん、そして傍らで見守っていたらしいシアン君が歩き始めると、ルカも同じようにふらふらとした足取りで歩き始めた。
きっとあまりにもたくさんの情報が頭に入りすぎて混乱しているのだろう。…私だって、正直混乱している。前世の記憶といっても、グングニルは自分であることにかわりは無いのだから。


「ルカ君!」
「おいゴラァ!ルカ!テメェ…、戻って来やがれ!」
「なぁ、行ったらアカンて、ルカ兄ちゃん…」
「ミルダ。それがお前の選んだ答えか?」
「ルカ!!」
「…っ、ルカ!戻って来て!」
「……」


私たちはルカを呼び止めようと必死にその背中に向かい叫んだが、彼が振り返ることは無かった。
マティウスは後を追ってきたルカを見て満足そうに笑いながら、両手を広げる。そこには光り輝く…創世力があった。


「使命なのだ。…私は世界を滅ぼさなければならない。人であれ、神であれ、存在することが敵を生む」
「…!!!世界を滅ぼすだって?あなたは理想郷を作るって言ってたじゃないですか!」
「どんな世界だろうと、この腐った天地よりはマシであろう?」
「そ、そんな!…ボクらは、転生者は…あなたの描く破滅のため、利用されたって事なの…?」
「ははは!そうとも!死す時はみんな同じだ。すばらしい世界の終焉だと思わんか?」
「う、うわああああああっ!」


やはり、シアンくんはずっと騙されていたらしい。…マティウスに攻撃をしたが、反撃を受けて広間の端まで吹き飛ばされてしまった。
そんなシアンくんを一瞬だけ見て、ルカは俯きながら喋り始める。


「僕は、僕はどうすれば…」
「世界の破滅。これもまた、一つの救いなのだ。…憎しみと裏切りのない世界を望むなら、力を使うのだ。さあ!」
「無駄だ、お前らは同一人物。二人でも使えない。ボクは力の番人だったからわかる。…ふん、信頼する者もおらず、愛する者もいない。結局、お前らに力は使えない…」
「私の命をお使いください」
「……」
「なぜ?…こんなに魔王アスラ様を想っているのに…。アスラ様の心には、私へのいささかの慕情も無いのですか?」
「…では、もう一つの方法をとるしかない。ルカ、お前の心に住み着いた女。イリアの命をもって創世力を使うのだ」
「…イリアは前世で僕を裏切った。スパーダも、リカルドもガードルに僕等を売ったし、名前だって前世のように仲間を刺した、アンジュもアルベールに従った。…でも、そんな事はどうでもいい。…僕は、僕の前世に裏切られた。天上を崩壊させ、現世にまで及んで皆を不幸にしたのは、自分自身だ。……僕なんか、消えてしまえばいい。…それが一番いいんだ!!」


ルカが叫んだ瞬間だった。…天空城が揺れ始めた…?バラバラと城の外壁が崩れていくのが見える。
危険を感じたマティウスとチトセさんが消えた後、俯くルカを見つめながら、イリアが切なげに彼の名前を呼んだ。だが、ルカはそれに答えるどころか、その場から動こうともしなかった。


「…飛行船へ戻るぞ」
「でも、ルカが!」
「行くぞ!!」


リカルドさんが半ば強引にイリアの手を引いて元来た道を戻っていく。


「名前、行くぞ!」
「ルカを、置いていくの?」
「…っ」
「ちょ、待ってよスパーダ!」


スパーダに強引に腕を引かれる。ルカはこちらには気づいておらず、ひたすら下を見て唇を噛み締めていた。
……ルカ…。


リカルドさんの判断は賢明だったと思う。ここで巻き込まれて死んでしまったら、それこそ元も子もない。…だけど……。…どうすることもできなかった自分が悔しい。…助けることが出来なくてごめんなさい。…どうか無事でいて。





20120205




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テーマ「人外ファンタジー」
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