天空城は多少は崩れているものの、全体の形は昔のまま残っており、夢で見たことがある景色が広がっていた。
城の中を歩いていくと、道の真ん中に何やら大きなものが立ちふさがっている。見たところ…センサスの兵士…?



「石像…?」
「これはな、遺体や。神々の遺体」
「ゾッとしねぇなァ」
「そうか…、ここはもう前世の世界の地続きなんだね。いうなれば神の世界、か」


遺体…。
センサスの兵の遺体があるとすれば、もしかしてどこかにアスラやイナンナの遺体や…グングニルの残骸などがあるのだろうか?
……?あれ、…?
私って…どうやって死んだんだっけ?…天上が滅びる時に、死んだの?…あれ、なんか思い出しそう…。


「んっ…」
「どうした、名前」
「いや…何か、思い出しそうで…」
「まあここに住んでたようなもんだしな、なんか思うところがあるんだろ」
「…んー、何なんだろう」


そんな会話をしているうちに、最深部の広間までやってきた私たち。
台座の近くに、先ほどのセンサス兵のような石像を発見し、イリアとエルが駆けていったが、途中でその足は止まることになる。


「な、なによ…コレ…」
「これは、僕とイナンナ…そして、グングニルと割れたデュランダル?」
「ああ?アスラがイナンナを殺したのか?…でも、アスラにも傷が…」
「何よ、…何なのよ、これ?」
「これを見てわかっただろう。何故天上が消滅したか」


マティウスとチトセさんが現れて、皆は急いで武器を構える。
…何か、何か重要なことを思い出しそう…。…


「わからない。なぜこんな事に?これは一体どういう状況なんだ!」
「お前は裏切られた。その絶望の気持ちが世界を滅ぼしたのだ」
「滅んだのは…、僕のせいだって言うのか?」
「言ったでしょう。そこの女が裏切ったって」
「あたしが裏切ったの?」


イナンナが…裏切った?…でも、…っ、でも?…私は何を思い出そうとしているのだろう?


「…見よ、私の顔こそ、貴様の所業の証拠だ」
「その顔、その声…」
「イナンナへの恨みは骨髄にまで達した!転生してもその無念を忘れぬよう、その刻印を自らの顔に刻んだのだ」
「じゃあ、あんたは…」
「私もアスラの転生。ルカ、貴様の魂の半身だ」
「何だって…!?」













ワタシはその日、イナンナの部屋に置き去りにされてしまっていた。
最近、イナンナの様子がどこかおかしい。恋人のアスラの前でさえ挙動不審になっていた。

いつ何時もイナンナと一緒にいたワタシを忘れていくなど…イナンナらしくない。ワタシは彼女を守るために生まれた槍だ。もしものことがあっては駄目だと思い、急いで彼女を探しに向った。


とりあえずイナンナのいそうな場所を虱潰しに当たっていた時だった。アスラの叫び声が聞こえたので、急いで大広間に向かう。するとそこにいたのは、イナンナをデュランダルで突き刺すアスラの姿が。



「イナンナ!」


ワタシは急いで駆け寄ったが、イナンナはすでに絶命していた。アスラもまた、絶命していた。だけどアスラが絶命していたことは気にならなかった。
ワタシと姉妹のように仲のよかったイナンナが死んだ。それだけでワタシの頭はいっぱいいっぱいになった。


「グングニル…」


デュランダルがワタシの名前を呼んだ。



「…」





デュランダルが、イナンナを殺した。だったら、ワタシはイナンナを殺したデュランダルを殺さなければならない。
自分の体が真っ赤に光るのを感じた。ワタシは勢いよくデュランダルに突き刺さった。ビキ、ビキ、とデュランダルにヒビが入り、そして割れた。

デュランダルが絶命した。ワタシが、殺したのだ。




アスラ、イナンナ、デュランダルの死体がある中、ワタシはカランと大広間の床に転がる。
ああ、夢が叶った。愛おしい人を殺したくて、でも殺せなかった。だけど、イナンナが死んだことが、ワタシの狂気の後押しとなった。
ワタシはデュランダルを殺したの。でも何故だろう、嬉しいはずなのに涙が出る。悲しいはずなのに笑いが零れる。





イナンナ、そしてデュランダルが死んで悲しいはずなのに、考えることは最低なことばかりで。




愛と狂気は紙一重。




自分の思い、どれが正しいのかが分からない。
ああ、楽しいな、悲しいな、辛いな、愉快だな…



自分の感情をコントロールできないまま、ワタシは天上と共に死んだ。





20120204





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