リカルドさんの操縦する飛行船の中で、私たちは一息ついていた。
そういえば、とルカがアンジュ姉さんに問いかける。


「ヒンメルって…、あの天空神ヒンメル?」
「ええ、そうよ。“天上を支える神々”の一柱ね」
「天上を支えるって、えらい人なの?」
「天上の為になくてはならないシステムのような存在よ。そのすべてが、ラティオ側に属したの。中でもヒンメルは、ラティオの王となる人だった」
「でも、そんな大事な存在だったってのに、ヒンメルって殺されちゃったわけ?」
「ヒンメルはラティオに謀反の心を持っていたの。だから、幽閉されてたのよね。…最終的には、敵に寝返られるぐらいならって、処刑されちゃったの。…天上を支える神々は、死ぬと魂は新たな赤子に宿る。…だったら最初からきちんと教育し直した方が簡単だと判断したのよ。…ヒンメルが再生する前に、天上という場が無くなってしまったのだけれど」
「何、ソレ?失敗したなら最初からやり直せばいいっての?大事な命を奪ってさぁ!おっかしいんじゃない?」
「そう、そう思ったからヒンメルはラティオを見限った。…そして、そういう考えを持たせたのはオリフィエルだったのよね…」


少しだけ辛そうに話すアンジュ姉さんに近寄り、ポコリと頭を優しく叩いた。
不思議そうに見上げた姉さんは、私の言いたいことが分かったのか、少しだけ笑う。


「姉さんは、姉さんだよ」
「そうね…」
「最初から、アルベールさんを説得するつもりだったんでしょう?」
「…ええ」
「でも、もし説得できてなかったら…姉さんは死ぬところだったんだよ?」
「…うん」
「姉さんがいなくなったら、悲しむ人はたくさんいるんだよ。私も、皆も…お兄さんも、みんな…悲しむんだよ?」
「…そうね、…。人の思いを踏みにじることをしてしまったわ。…ごめんなさい」
「…姉さん。…姉さんの悩み、気づいてあげられなくてごめんね」
「……ううん」



姉さんが私を心配してくれるように、私だって姉さんが大切で、心配なのだ。
…無理をして欲しくない。もちろん、姉さんに限らず、仲間たち…みんなが大切だから。

そしてようやく分かった。北の戦場での一件、あの時仲間たちは、今私が姉さんに抱いているような感情を私に対して抱いていたのだろう。
思い、思いあってこそ私たちは共に歩んでいくことが出来るのだ。今度からは、一人で悩まず…仲間の力を借りよう。人は決して一人では生きていけないのだから。














「すごいな〜!町が小さく見えるわ!」
「雲が隣にあるんだな、しかし。食べてみたいんだな、しかし」
「いや、雲は食えねェだろ」
「…こうして楽しむ分にはとても良い発明だけど…、戦争に使われるとなったら怖いな」
「そうね…、いつかこんな状況じゃない時に、また皆で乗りたいわね!」



いつか、こんな状況じゃない時に…。
私が生まれた時には、すでに戦争は始まっていた。戦争のない平和な世の中…それがどれほどすばらしいものか。

…争いごとが無く、皆が笑顔になれる世界。
誰もが幸せに暮らしていける世の中は、やってくるのだろうか?


飛行船から広い大地を見下ろす。
…すると操縦していたリカルドさんが声をあげた。



「天空城が見えたぞ!」
「…!」





目の前に広がるのは、空に浮かんだ巨大な城。どこか懐かしく感じたと同時に、胸の奥に少しだけ悲しみが広がった。






20120203



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