「名前姉ちゃん、アンジュ姉ちゃんもなんや訳アリなんやろ。早く連れ戻しに行こうや」
「…うん、そうだね。…でも、一体どこへ行ったんだろう?」
「恐らくテノスの町の奥にある兵器工場だろう。そこが軍の司令部を兼ねている。そこにいる可能性は高い」
「じゃあ乗り込もうぜ!」


テノスに帰ってきた私たちは、町の奥にあるという兵器工場にやってきた。
置かれてある機械を見ながらルカが考察する。


「転生者研究所やナーオスの兵器工場程じゃないけど、ここも独自の技術を持っているようだね」
「ぶっそうなのには変わりないけどね。どうせ、人殺しの道具よ」
「さあ、奥へ向かうぞ」



姉さんを絶対に取り戻さないと…!

テノス兵を倒しながら奥へと進んで行くと、だんだんと肌寒くなってくる。そして重たい鉄のドアを開けた時だった。
びゅうびゅうと雪が降りつける。辿り着いたのは屋上だった。中央に巨大な乗り物のようなものがある。



「これは…?」
「こいつは飛行船。文字通り、空を行く船だな。こんなものまで作るとは…」


テノスの蒸気機関技術はすごいと聞いてはいたが…空を飛ぶ乗物まで作ってしまうなんて…。
これで遊覧飛行をするのは素晴らしいが、戦争に使われるとなったら別だ。空からの無差別攻撃…考えるだけで恐ろしい。


「あ、あそこ!アンジュ姉ちゃんとさっきのスカシ顔や!」


エルが指さす先にいたのは、少しだけ困ったような顔をした姉さんとアルベールだった。私たちは急いで彼らに近寄る。


「さあ、オリフィエル。僕ら二人で天空城に向かおう。創世力はそこにまだあるはずなんだ」
「……」
「姉さんっ!」
「っ、名前!」
「待て、どこにも行かせないぞ!」
「…ふふ、どうも僕ら二人の間には障害が付き物らしい」
「君もマティウスの仲間か?」
「マティウス?ああ、あの魔王を名乗る救世主気どりの甘ちゃん坊やかい。…勘違いして欲しくないな。僕自身が創世力を望んでいるんだ」
「世界を滅亡させる気?」
「質問の意図がわからないな。もちろん、僕が望めばそうなるはず。創世力は使用者の思う力となる。…天上の消滅は、使用者がそう望んだからなのさ」


すると今まで黙っていたアンジュ姉さんが戸惑いがちに口を開く。


「…一つ聞かせてください。…ヒンメルさんは前世において、天地の融合を望んでおりました。しかし、天が消滅した以上、それは果たせません。ではあなたは一体何を成そうというの?」
「知れた事だよ、オリフィエル。センサスも地上人も排した、ラティオの転生者だけを集めた理想国家さ」
「何ですって!」
「僕がラティオにいた頃、天地が一つになる世界を夢見ていた。それが理想だと信じていた。…でも、ご覧?この地上の有様を。愚かにも戦乱に明け暮れる地上人を。…やはりラティオは正しかったんだよ。こんな野蛮で愚かな地上人を天に還らせるわけにはいかないんだ」
「そ、そんな…」
「そしてそんな地上を戻そうとするセンサス人も所詮愚か者だったのさ。ラティオは今こそ蘇る。この天空神ヒンメルの手でね」
「止めて下さい。考え直してっ!ね?」
「どうやら同意してくれないようだね」
「っ、そうだよ!無駄な事は止せ!“献身と信頼、その証を立てよ さすれば我は振るわれん”同意もなしに創世力が使われるもんか!」
「それはどうかな?…創世力、そしてアンジュ。この二つが揃えば、もはや僕の思いのままなのだよ」
「まさか、アンジュの命を…!?」


…アンジュ姉さんの命を…!?
何故姉さんを狙うのかずっと疑問に思っていたが、そういう事だったのか…!

姉さんの前世はオリフィエル、そしてオリフィエルは天空神ヒンメルの教育係…。二人の間には切っても切れない絆があった。


「そのまさかさ!センサスの野蛮人ともは二つだけ良いことをした。オリフィエルを殺さなかった事と、創世力の別の使い方を知っていた事!」
「はっ!ふざけたヤツ!あんたなんかにねぇ、アンジュは殺させないんだから!」
「ああ、返してもらうぜ」
「…アルベールぶっつぶす」
「名前…?」
「ぶっつぶす」
「だとよ!消えなデコっぱち!」
「っ、みんな、止めて!この人の邪魔をしないで!」
「何でやアンジュ姉ちゃん!死んでまうんやで?ウチ、そんなんイヤや!」
「アンジュ、お願いだ…。そこを退いてくれ」
「…ごめんね、ルカ君。出来ないの、たとえ、あなたと戦おうとも…」


そういうとアンジュ姉さんは武器を取りだす。
その後ろでアルベールの顔が愉快そうに歪んだ。………ぶっつぶす。





20120203




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