「臣民よ、時は来た!守護獣ケルベロスより創世力をとうとう譲り受けることがかなったのだ!ここ、天空城は新しく迎える世界へのいしずえ。ここを創世力発動の場とす!…我ら二人、発動の儀を執り行う。今こそ天地は一つとなり、正しき世界がもたらされるのだ!」
「魔王!魔王!万歳!」
「天地を一つに!」
「天地を一つに!魔王、万歳!」













「…、魔王が…創世力を使う場面?二人で…使うというんだったら、もう一人は誰?」
「…あ、せや。天空城や!」
「ねえ、エル。あんた、今なんて…」
「天空城やねんて。ウチ見てん、天空城がな、残ったままでな、創世力とな」
「…おい、ルカ。通訳してくれ」
「…えぇっとぉ〜…、つまり、ヴリトラは天上が崩壊していく様子を見ていた。その時、天空城は崩壊せず残っていた」
「せやねん」
「そして、創世力もそのまま残っている…って事かな?」
「せやねんせやねん!あー、ホンマ、ルカ兄ちゃんはウチの事よぉわかっとぉわ!」


これで次の手掛かりが見つかった。…といっても、天空城か…。天空ってことは空、だよね?…どうやって行くの?
正確な位置も分からないし、…ううーん。皆で頭を悩ませていた時だった。

複数の足音が聞こえてきた。そちらを見て、スパーダが悪態をつく。


「トロトロしすぎちまったよーだな」
「ホンマや。せやからウチ、急かしとったのに。…心ん中で」
「エル?今度から大事な事は口に出して言ってちょうだいね」
「やぁ、君たち。我が国所有の敷地内で何をしていたのですか?」

聞こえた声に振り向くと、眼鏡をかけた男性がこちらを笑顔で見ていた。
身につけている物も高価そうで、一目で一般の軍人でないと分かった。


「ああ、えーっと…道に迷っちゃって…」
「そうなんだよ!雪で道を見失い、暖を求めて辿り着いたんだが…旅人を襲う山姥の根城だったんだ」
「はぁ?……あ、いえいえ、そうなんです。その山姥ったら、身の丈2メートルの毛むくじゃら大男で…」
「ああ?お前ウソ下手だな!それじゃあ雪男じゃねーか!山姥つったら女だろ?」
「あちゃあ、しまった…」
「あ、あはは…」


漫才のような二人に生温かい視線を送っていると、先ほどの男性が声をあげて笑いはじめた。


「ははっ!大変面白い。リカルド君、いい友達だね。…私はテノスの貴族に名を連ねる者。アルベールと申します。よろしくお見知りおき下さい」
「(っ、この人がアルベール)」
「あなたがアルベール?なぜこの場に?」
「その前に、こちらの質問に答えていただきましょう。この土地で何をされていたのですか」
「さっき、説明したやん。性別不明の雪男を見物に来たって」
「…言ってない」
「…言ってないよ」
「はははは!まあいいか。さて、リカルド君。ここにアンジュはいるのかい?」
「わたしです」
「…フン、勘違いするな。引き合わせるために連れて来たわけではないぞ」


リカルドさんがアンジュ姉さんを庇うように前に出ると、それを見たアルベールが面白そうに笑ってそれから何度か頷いた。
…さっきからこの人、私たちを下に見て話を進めている気がする。…失礼だなぁ。


「ええ、ちゃんと契約破棄の書状と、違約金は届いています。ともかく、結果的にアンジュに会え、なおかつ違約金も帰って来た。ずいぶん得をさせていただきましたね」
「それで、わたしに一体何の御用ですか?初対面だと思うのですが」
「つれない事を言うね、オリフィエル…」
「…!」

アルベールの言葉を聞いた瞬間、アンジュ姉さんの顔が強張った。


「あなたは、ヒンメルね?」
「そう、僕はヒンメルだ。待ち焦がれたよ。…さあ、現世でこそ、僕の期待に応えてもらえるね?」


アルベールがそう言うと、黙り込むアンジュ姉さん。それから、顔を上げるとこちらを見ようともせずに、アルベールの下に歩いていった。…え…


「ア、アンジュ姉さん?」
「そ、そんな!」
「セレーナ!…俺はまだ雇われているぞ。戻れ」
「アンジュ姉ちゃん!」


皆が口ぐちにアンジュ姉さんの名前を呼ぶ。
だが、姉さんは振り返ることもせずに、アルベールと共に行ってしまった。…っ!

私は槍を構え、立ちはだかるテノス兵を薙ぎ払っていく。アンジュ姉さん、アンジュ姉さん、アンジュ姉さんっ!


「名前っ!」
「っ…!あ、ス、スパーダ…」

槍を持っていた方の腕をスパーダに掴まれる。周りを見ると、傷ついたテノス兵が。
っ…また我を忘れてた…スパーダにお礼を言い、アンジュ姉さんが歩いて行った方を見ると、もうそこには誰もいなかった。





「…っ、姉さん…!」



私の声は、雪に呑まれて消えてしまった。




20120203






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