レムレースを抜け、戦場にやってきた。
幸い前線は移動しているようで、兵の姿は少なく、潜り抜けるには最適だ。…なるべく兵士に出くわさないようにしながら進んだ先にある巨大な門の前、ついに戦場を抜けることが出来ると思った時だった。

門の上から、誰かが飛び降りてきた。その顔を見て、私は反射的に後ろに下がる。


「さあさあ、お待ちかねー。窓辺のマーガレットでおなじみの、オレの登場です」
「ゲェッ、出たッ!」
「ほう?その声紋と体臭には覚えがあるなぁ。えーっと、イブラ・ヒモビッチさん?」
「徹頭徹尾ハンパなく違うっての!」
「なんで?」
「なんで?ってあんたねぇっっっ!!…はぁ、はぁはぁ…」
「イリア、血圧上がりすぎ」
「大変やなぁ、ツッコミ役…」


お兄ちゃんは槍を担ぎながら体をくねらせる。視点は定まっていない。
そして血にまみれたにおいが漂ってくる。…すごく、複雑。


「この戦場には歯ごたえのある奴がいなくてねぇ、欠伸を噛み殺していたところだったんだりゅん」
「っ、お兄ちゃん!」
「おやおや、オレの可愛い妹よ。まだこんな奴らとつるんでいたのかい?」
「…ねえ、教えて。何でそんなになっちゃったの?あの時のお兄ちゃんは、どこへ行っちゃったの?」


私がそう聞くと、お兄ちゃんはニコニコと笑っていた顔を一瞬だけ無表情に変えた。それを見た瞬間、背筋が凍りつく。
ガタガタと震える私を庇うように、スパーダが前に立ってくれた。


「我が妹よ。お前なら分かっていると思っていたのに…」
「な、何の話…」
「血が欲しい、浴びたい、血を浴びたい、狂いたい狂いたい狂いたい…!」
「っ…」
「オレ達兄妹は、遠く昔から、この願望を胸のうちに秘めていたはずだぜベイベー?」
「な、」
「ワケわかんねーこと言ってんじゃねーよ!名前がそんなこと望むはずねぇだろ!」
「ああ?お前名前なんだっけ?口の利き方知らな太郎?もっと耳障りのいい言葉選ぶと吉」


血が、欲しい…?


その言葉に、ズキズキと胸が痛み始める。



「イナンナへの愛の祝福」
「ゲイボルグの狂気の体」


その二つの魂がこめられたグングニル。愛も狂気も知った、私の前世。



「グングニル」


お兄ちゃんが、…ゲイボルグが私に話しかける。



「愛なんかより、狂気を取ったほうが気持ち良いぜぇ?」
「何言ってんだよハスタ!名前、耳貸すんじゃねーぞ!」
「…う、うん…」



ワタシの体で肉を切るのが気持ち良い。もっと浴びたい、鮮血を、鮮血を…っ
あの時のように、この世で最も愛するヒトをこの手で…!



「うっ、ぅ…!」
「お、おいどうしたんだ名前!」


急に頭が痛み出して、頭を抱える。それに気づいたスパーダが私に手を伸ばした時だった。



「っ!!」
「スパーダ!」
「名前…!?な、なんで!?」















「え、」













私が握った槍、それが貫くは…







「ス、スパーダ…」








20120203




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