「…??なんだ、あれ…」
「油断するなよ…」


レムレースの湿原に入ってしばらくした時だった。私たちの前に巨大な塊が現れた。それは、泥の中の死体たちを取り込んでいき、次第に大きくなってゆく。


「ああ?なんだコリャあ!」
「うええぇええっ、キモっ…。なんやコレ?」
「倒すぞ!」
「待ってくださいリカルドさん!」
「アンジュ姉さん?」


ライフルを構えたリカルドさんを制して、姉さんが寄り集まった死体に一歩近寄る。
すると、死体たちがささやくような声で話し始めた。…こ、これは…?


「オリフィエル、さま…」
「あ、あなた方は…」
「ここは…天上では、ない、の…か? 俺は、死んだ、のか? 寒い、寒い…助けて、く、れ… なぜ、地上人が、ここにい、る?天上から排除された、やつ、ら…なの、に 俺の、体は、ど、こ…だ…センサスのやつらは、どこ、だ…」


色々な声が塊から聞こえる。
…姉さんをオリフィエルと呼び、センサスや天上という言葉も出てきた。…これは一体何なのだろうか。


「転生者…ではないの?」
「…違う。地上の魂は刈り取られ、天上の魂は循環する。だが、まれに循環の流れに乗れず、死んだ魂がその場に残る場合がある。あくまで天上での出来事だが…」
「??なんや、ワケわからん…。地上人やないって事やな?」

リカルドさんの話によると、この現象は天上のみで起こることみたいだ。…なら、何故地上で…?
すると、アンジュ姉さんが塊に向けて手を差し伸べた。


「…ラティオの同胞。良く戦ってくれました。あなた方の死は安らかな光に満ちたもの」
「おお…、オリフィエル様…」
「さあ、魂は正しき場所へ。暖かく、美しい彼方へ」


アンジュ姉さんがそう言った瞬間、辺りが光る。そして、塊たちが地面に溶けていくように消えていった。「ヒンメル…」アンジュ姉さんが困惑した表情で呟く。
ヒンメル…?どこかで聞いた名前だ。でも、思い出せない。


「姉さん…?」
「…っ、な、なんでもないわ」
「?」
「魂が大地に還った…のか?なぜだ?」
「天上が無くなったからじゃないの?」
「だから大地に魂が降りてきた…という事か。ありえん話ではないが…」
「でもさっきの死体の言葉じゃ、ここを天上だと思ってたみたいだけど?」
「…あれぇ?なんやろ…。なんか、思い出しそう…。…天上、ここが天上…?いや、でも…ぶつぶつぶつぶつ…」
「エル、なんでぶつぶつって言ってるの?」
「なんか考え事してるっぽいやろ?この方が」


皆が話をしている間も一言も言葉を発さない姉さんに疑問を持ち、もう一度話しかけてみると、またはぐらかされてしまった。
…おかしいなぁ、姉さんは悩みがあると必ず自分から相談してくるのに。



「名前、アンジュの様子が変だけど…何か知ってる?」
「恐らく前世絡みだろう」
「アンジュなー。わりと悩まない人だなー、しかし」
「そう…だね。じゃあ、どうしよう?聞いてあげたほうがいいかな?」
「聞いても答えてくれなかったよ」
「そっか…名前が聞いても答えてくれないのか…それはしょうがないね」
「まあ、どうしても何かあるんなら自分から相談してくるから大丈夫だと思うよ」
「そっか…ありがとう」
「(…ふう)」


ルカにそう答えたのはいいものの…


私はアンジュ姉さんのほうをチラりと見る。やはり少しだけ顔色が悪い。
…大丈夫、だよね?




20120203




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