「うっわ、何、ここ?なんか…、ぬかるんでて気っ持ち悪ぅ〜〜…」
「ここがレムレース湿原、か。戦場はさらに先にある。あまり体力を消耗するなよ」
「っ…」
「名前…大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ。ありがとう、ルカ」


レムレース湿原、テノスの南に位置する湿地帯。
私が住んでいた頃は、もっと規模も小さく、荒れていたにしてもここまでではなかった。無恵と戦争の影響でこんなに荒れ果ててしまったのかな。
すると、隣にいたルカが悲鳴をあげた。何があったのだろう、と顔を上げると…、え…


湿地帯特有のぬかるんだ地面から、人が出てきたのだ。しかも、レグヌムの軍服を着ている。
だけど、…皮膚は腐っていて、髪の毛はまばら、骨や目が剥き出しの状態…死体だった。


「何なのアレ…」
「し、死体が…!そんなのありえない…」
「兵装から、ここで戦死した兵士だった事は間違いないな」
「あ、あ、あ…ど、どうする?」
「戦うしかないでしょ!行くわよ皆!」



死体が動くなんて…そんな、まさか…。
何とか元レグヌム兵の死体を動かないようにさせたけど…戦闘後の動揺は半端のないものだった。

何故、ここ数年でレムレース湿地帯の荒廃が広がったのかが分かった。…戦乱の影響と死体の腐敗が緑を蝕み、以前より荒れ果てていったからだ。


「ここに死体がてんこもりって事は、前線は北に移動したって事か…。でも、だとしたらヤバイな…」
「動く死体まみれ、っちゅうワケやな?はぁ…、気が滅入るなぁ」
「死者が動く…。天地の理に背く現象ね。これも“無恵”…つまり天上の消滅に由来するのかな。…嫌な予感がする」
「…あ、れ?」
「?どうしたの、名前」
「…」


視界の端に映ったもの。私は何かを感じ取り、それに近寄った。
瓦礫の山が泥の中に埋まっている。まさか…これは…

泥の中に入ると、皆が驚いたように私の名前を呼んだ。




「名前?」
「これ…、」
「瓦礫?これがどうしたのよ?」
「待って、…名前、もしかしてここは…」


アンジュ姉さんの言葉に頷く。瓦礫の山々が転々と積もっている。
私は拾っていた瓦礫を元の場所に戻すと、私は記憶を頼りに瓦礫と泥の間を進む。

アンジュ姉さんも汚れることを気にせず私についてきてくれた。仲間たちも私たちを追ってきた。



私は、ある瓦礫の山の前に立った。
薄汚れているけど、この茶色い瓦礫には見覚えがあった。…私の、家だ。

今は瓦礫しかないけれど、…ここには確かに、私の思い出があった。
私が瓦礫の欠片を拾うと、後ろからアンジュ姉さんが抱きしめてくれる。その温もりがあたたかくて、切なくて…少しだけ涙が出た。
そして同時に思う。抗争が起こって村が無くなったのも、レムレースの湿原がこんなにも荒れてしまったのも、全ては無恵…天上界の崩壊が原因。



…創世力を手に入れなければ、悲しむ人がたくさん増える。
もう二度と、こんな悲劇を起こさないようにするために…私は、進まなければいけない。




「…もう、大丈夫だよ」
「…名前」
「創世力を手に入れないと。…私たちのためにも、…皆のためにも」
「…そうだね」
「…ふふっ、ごめんね皆。私はもう大丈夫。時間を取らせてしまってごめんなさい」



ニコリと笑うと、皆も頷いてくれる。
さて、…名残惜しいけどこの場所ともお別れだ。…私は瓦礫の山を一度だけ見つめて、それから踵を返した。




20120203




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