夢を見た。
前世は関係ない、私…名前・エクステルミの過去の夢。

過去の私は兄のハスタと共にマムートへやってきていた。これは…7歳の頃だろうか。農作物を商人に売り、少ない小遣いでお菓子を買おうとしていたのだ。
お兄ちゃんに手を引かれて、私は古臭いワンピースの端を持ちながらたくさんの人が行きかう中を潜り抜けていく。



「名前は何のお菓子がいい?」
「ちょこれーと…。でも、いっこしか、かえないよ?10ガルドはおかし1こぶんだよ?」
「名前のだけでいいよ」
「おにいちゃんのは?」
「俺はいいよ」
「だめだよ!おにいちゃんのすきなおかしもかわないと!…でも、ガルド、ないけど」
「…俺もチョコレートが食べたかったんだ。…名前は半分こでも良い?」
「うん、おにいちゃんとはんぶんこ!」









お家に帰ってから、お兄ちゃんと繋いでいた手を離す。お母さんに手を洗ってきなさいと言われ、私とお兄ちゃんは水溜めに向かう。
薪割りをしていたお父さんが今日使う分の薪を持ってお家に入ってきた。


「名前、お菓子は何にしたんだ?」
「ちょこれーとだよ!」
「…そうか、ハスタ、連れて行ってくれてありがとうな」
「いいや、大丈夫だよ。…名前も喜んだようだし」
「おにいちゃんあとでおへやでちょこたべようね!」
「あら名前、晩御飯も食べるのにお菓子も食べるの?」
「たべるよ!」
「ちゃんと食べれるのか?」
「た、たべれるもん!」
「名前が残したら、俺がぜーんぶチョコ食べちゃお」
「だ、だめ!!」








チョコレートを食べた後、私はお兄ちゃんのベッドに潜り込んで、寄り添うように甘えた。
そんな私をお兄ちゃんは大きな手で包み込んでくれる。

…結局あのチョコレート、お兄ちゃんが全部私にくれたんだったな。



「名前」
「ん、おにいちゃん…?」
「俺が大きくなったら、絶対に幸せにしてやるからな」
「?しあわせ、だよ?」
「…俺が働いて、たくさんチョコレートを食わせてやる。もっと可愛い服を着せてやる。学校にだって通わせてやるし…なんだって買ってやるから」
「??」
「…、ああ、ごめんな?……、もう遅いから、寝るか。おやすみ」
「うん…?…おや、すみ」


















目を開けると、どこかの宿屋のようだった。
窓の外の景色は黒。星が輝いていて、美しい。ベッドから上半身だけを起こすと、部屋の隅の椅子に誰かが座っているのが見えた。…スパーダだ。彼は静かに寝息を立てていた。ずっと、ここにいてくれたのだろうか?

…確か、グリゴリの里から脱出するときに昔のことを思い出して、動揺したんだっけ…?それから気を失ったとすると…。
ここは多分、マムートの宿屋。…ついに、帰ってきてしまった。…私の、負の感情が詰まった土地へ。幸せだったけど、全てを失った地へと。


…これから先、アルカやレグヌム、枢密院…色々な者たちとの戦いになるだろう。色々なことを知ることになるだろう。…こんなところで立ち止まってたら、皆の迷惑になってしまう。



「(よし…)」


大丈夫だ。
平気だ。マムートの、レムレースの、村のことは、思い出さないようにしないと。…きっと、大丈夫だから。だから…今だけ、今だけ、許して。



服の裾で涙を拭う。どうしてこんな時に限って、昔の夢なんか見ちゃうんだろう。
大好きだった家族は、もういない。過去の記憶は、辛いものでしかない。…苦しいよ。



「うっ…ぅ…」
「……」




20120202




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