「創世力…、“献身と信頼、その証を立てよ。さすれば我は振るわれん”…か」
「お悩みのようでございますな」
「ああ、俺は迷っている!なぜ、何ゆえ、このような方法でしか力は使えないというのか!」
「ふむ、この辺りラティオとセンサスでは解釈に相違があるようですぞ?」
「何だと?センサスに古来より伝わる物の他に、何か方法があると!」
「その通りです。“献身と信頼”その双方を満たす者、つまり己の半身となり得るほどの近しい者と共に、力を行使するのです」
「そうか、なるほどな…。信頼を以って、か。ははは、これはいい!素晴らしい!」








ジャングルの奥地には記憶の場があった。ここにある巨大な祭壇には、かつてここで龍神信仰が盛んに行われていたことが記されていた。
そして私たちが見た記憶、アスラとオリフィエルが「創世力」について話をしている光景だった。

…もう一つ、私はある違和感を感じていた。
今まで、記憶の場にたどりついた時に、みんなと違った記憶を思い出すことが当たり前だった。…だが、今回はどうだろう。アスラとオリフィエルの記憶しか見えなかった。…これも、グングニルがいなくなった影響なのだろうか?


「今のって…」
「創世力の使い方…よね。…でも」
「何か、思い出したみたいだね」


突然のことに驚いて声のしたほうを振り返ると、犬男くん…もといシアン君がいた。勿論おつきの犬もいたので、隣にいたアンジュ姉さんの身体がビクリと震えたのを私は見逃さなかった。


「あ、自分。犬男って名前ちゃうかってんなぁ。えーっと、シアン?」
「そう、シアン君よ。ほらシアン君、おいで?抱っこしてあげるから」
「??何を言っている!ボクは創世力の場所が知りたいだけだ!さあ、マティウス様に協力しろ」
「…あのね、キミ。マティウスなんかに協力しちゃいけないよ」
「そうだよ。お前、多分利用されてんだ」


ルカとスパーダがそう諭すが、シアン君は聞く耳持たないといった様子で首を横に振る。


「惑わそうだったってムダだよっ!アルカでは、転生者を重用するんだ。捕縛適応法からも守られるんだ。守ってくれるのは…ボクを守ってくれたのは、マティウス様だけだったんだ!」
「けどな…、その…、なんちゅうか…」
「生まれながらにして不幸になった転生者、人の都合で不幸になる動物達。これらを救う新しい世界が必要なんだ!」
「フン、知らないほうが幸せなことがある。お前を見ているとつくづくそう思うな」
「何だよ!またバカにするつもりか!?」


するとルカがシアン君に近づいていく。シアン君はそれを見て急いで身構えた。


「アルカは転生者を集めている。でも、それは適応法と同じことなんだよ。集められた転生者は、同様に研究所や軍隊に送られているんだ」
「何を根拠にそんな事を!そんなわけないっ!バカにすんなよ」
「オレ達は適応法で捕まり、軍に放り込まれて来たんだぜ。それに方々で話を聞いてきたんだ」
「物を知らん者は馬鹿にされるべきだ。とっとと帰ってその理想郷とやらの夢でも見てろ」
「バカだと!またボクをバカにしたなっ!」

リカルドさんの煽りにシアン君が反応する。
も、もっと優しく言ってあげればいいのに…。そう思っていたら、エルがシアン君をフォローし始めた。


「なあ、バカでもエエやん?マティウスなんか放っといてさぁ、ウチらと来ぃやぁ」
「な、何だと?」
「あんな、ウチかて今一人やねん。親が死んでしもうて、ウチだけで頑張って生きて来てん。でもな、周りには友達がおった。せやから生きて来れた思てんねん」
「ソレがなんだよ!どうしたってんだよっ」
「自分、友達おれへんからって、マティウスとか言う人を頼りにしたらアカン思うねん。せやから…、ウチらと友達になろ。みんなエエ人やで?」
「え?あ…、その…」


一瞬口を噤んだシアン君であったが、すぐに表情を固くして私たちを睨み付ける。


「ダマされるもんか。絶対ダマされないからなっ!行け!ケル!ベロ!」
「…絶対友達にしたる。無理矢理友達にしたるからなぁ!」


皆が武器を構えている時、ふと思った。
シアン君が、マティウスより先に私たちと出会っていたら、どうなっていたんだろう。

きっとアルカの中でも彼は友達と呼べる人間がいないのだろう。先ほどエルが言った「友達になろう」という言葉に対するシアン君の反応を見て何となく分かった。
もしかしたら、彼自身少しだけ迷っているのかもしれない。…だったら、


「(あの子を救わないと!)」


そう決意し、私は槍を構えた。





20120202



「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -