「なんだか、この地方には聖地と呼ばれるものはないみたいっぽいね」
「でも、文献にはこの島に天上との接点があるとあったはずなんだけど…」
「人々の記憶からは消えているのかもしれん」
「にしても、蒸すねー…」
「匂う」
「な、何よ!今日はお風呂に入ってないけど、私はまだそんなに…」
「ちゃう。匂うんや、犬の匂いが…。クンクン、クンクン…」
「お前も犬みたいだな」
「ホンマ?何犬?何犬っぽい?」


例のジャングルに着いたのは良かったのだが…。先ほどから、グングニルの反応がない。
反応がない、というのは語弊があるな。…うーん、そうだな…。

感覚的な問題だから、伝わり難いと思うんだけど…。私はグングニルでグングニルは私なわけだから、当然どんな考えなのか、どんな気持ちなのか、というのが予想がついたというか…。そうだな、例えば私とスパーダが付き合った時、私も喜んだしグングニルも嬉しそうに胸を躍らせていた。だけど、今はいくらグングニルを見ようとしても、見れないというか…。私の中からグングニルが消えたような、そんな感覚に陥っていた。…天術は使えるし、前世がグングニルであるという事実はなくなったんじゃないと思うんだけどね。



「……」
「名前?さっきからどうしたんだ?ずっと黙って…」
「あ、うん…。ちょっとね」
「…何かあったのか?」
「…グングニルが消えた」
「………は?」


私がそう答えると、スパーダは何言っているのか分からない、と言ったような様子で私を見てくる。そりゃあそうだろう。
なので、詳しく伝えると、また驚いたような表情をされた。


「お前、グングニルと話していたのかよ?」
「…え?」
「だから、グングニルの気持ちがわかるとかって…。グングニルと会話でもしてたのか?」

スパーダにそう問われ、少しだけ戸惑う。私は、グングニルと会話をしていたのか?



「俺は、…少なくとも俺は、記憶を思い出したりするだけだ。だけど、お前は…グングニルが喜んでいる、って言っただろ?おかしくねぇか?グングニルがお前の中にいたみたいじゃねぇか」
「…スパーダは、そうじゃないの…?」
「……名前、お前…」


スパーダは、記憶を思い出すだけだった。じゃあ、何で私はグングニルの気持ちまで感じ取ることが出来たのだろう…?



「っ…!」

よく考えると、恐ろしい話だ。だけどそれと同時に安心した。今はもうグングニルの気持ちは伝わってこない。安心しても、良いのかな…?



「名前…大丈夫か?」
「…うん、…今はもうグングニルの気持ちもわかんないし…きっと大丈夫だよ」
「何かあったら絶対に言えよ?…それって、普通じゃないぞ」
「そう、だね」


何故グングニルがいたのか、何故グングニルが消えたのか、何も分からない。
とにかく、今は何も異常はないのだから…気にしないように、しよう。

















「イナンナへの愛の祝福」
「ゲイボルグの狂気の体」


その二つの魂がこめられたグングニル。狂った波長の槍。それがワタシ。
愛と狂気は紙一重。デュランダルを愛すと同時に、ワタシは己の胸の奥底に狂気が巣食って行くのを感じていた。愛おしいヒトの血が欲しい。その身体をズタズタに引き裂きたい…。そんな願いがついに叶った。あの日に、そう、あの日よ。天上崩壊の日。ワタシはデュランダルを殺したの。でも何故だろう、嬉しいはずなのに涙が出る。悲しいはずなのに笑いが零れる。

ワタシは何がしたかったのだろう。愛とは、狂気とは一体なんだったのだろう?


転生してからも、“ワタシ”は私の中で生き続けていた。答えを探すために。未練という力で、ワタシは私に巣食っていた。
そして私はあの人と再び結ばれることになる。嬉しかったけど、ワタシは怖かった。また、天上が崩壊した時のような気持ちになるのが恐ろしかった。

不安定なワタシは当然私にも影響を与えていた。ワタシが私の中にいるせいで、私にも「イナンナへの愛の祝福」「ゲイボルグの狂気の体」…2つの波長が流れている。
だから、ナーオスでのあの出来事が起こった。あれは全てワタシの狂気のせいだ。


愛を知った私に、ワタシと同じ思いをして欲しくない。
ワタシは、私のために眠りにつくことにした。私には、愛だけを知って欲しい。快楽はないけど、優しさと温かさを感じることができる、愛だけを感じていて欲しい。


答えを知ることができなかったのは、残念だけど…



ワタシは静かに眠りについた









*
補足説明
私が「名前」さんでワタシが「グングニル」
グングニルは前世だけど、幽霊みたいに名前さんについていた、というか。幽霊というよりは未練の塊というか…。
そして重大なネタバレも出ました。

とりあえず、未練グングニルはここで眠りにつきますが、まだ終わったわけじゃありません。ということだけお知らせします。分かり辛い表現が多くて本当に申し訳ありません。



20111204




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