南国のフルーツを賞味し終えた後、私たちは再び船着場に集まった。
エルマーナが拾ってきた情報によると(そういえば、エルマーナと最初に会った時に情報収集がお手の物と言っていた。フルーツをもりもり食べながら情報を拾ってきたとは…自分で言うだけあるなぁ)


ガルポスの農園で育った果物は、グミに加工して戦場に出荷するらしいのだが、最近農園をガキと2匹の犬が荒らすらしく、多大な被害が出ているらしい。
…どう考えても、犬男…否、シアンくんである。彼はいつも街の南東方面にあるジャングルからやってくるらしい。


「あのガキはアルカに属していたな。わざわざ里帰りしにここまで来たとは思えん。俺たちを先回りしたか…それとも何かを探っているのか…」
「なんや、ジャングルの方から来る言うとったな。向かおか?」
「そうだね…、聖地を探しがてら行ってみようか」


私たちは、ジャングルがある南東に向かって歩き始めた。
イリアと話しながら歩いていたのだが、しばらくした所で、彼女はいきなり声のトーンを落として囁くように喋り始めた。


「ねぇ、名前。アンジュってば…結構ダイエットダイエット言ってるじゃない」
「あー…うん、まあそうだね」
「そのクセ結構食いしん坊だもん。だから後ろめたいのかな?…でもそんなに太ってるワケじゃ…。…イヤ、ちょっとぽっちゃり…かな?でも可愛いから気にする事もないのにね」
「…あ、あは…」
「どうしたのよ名前、なんで愛想笑いなんてしてるの?…まあ、そんなワケにもいかないかぁ。アンジュも女の子だもんねぇ、だったらやっぱ食べる量を少しで「イーリーアー?どうかしたの?」ひっ、ア、アンジュ…!」
「何か不穏当な言葉が聞こえたけど、気のせいかな?」
「きききき気のせいですゥ!」

イリアは大げさに肩を揺らした後、急いで前方で話しているルカとエルマーナのもとへ向かった。
すると、今度はアンジュ姉さんと並んで歩くことになる。だけど、さっきからずっと無言。やっと口を開いたかと思うと…


「…そ、そんなに太ってなんか…」

ああ、やっぱり気にしていたらしい。
アンジュ姉さんはお腹のあたりを抓むと、深いため息をついた。


「うう〜っ、名前〜っ」
「ア、アンジュ姉さん…?」
「お菓子も食べたいけど痩せたいって、都合よすぎる?」
「…ま、まあ」
「ああーんっ、もう!どうしたら良いのっ!……そうだわ」
「?」
「名前、ダイエット用のお菓子とかって作れたりする?」
「甘さ控えめなのとか、…太らないような材料で作るケーキとかなら…できるよ」
「お願いっ!それ作って!」
「いいけど…食べないっていう手は「ない」…ああ、そうですか。分かった、いいよ」
「ありがとう!さすがね、名前!」


アンジュ姉さんが上機嫌になったのでよかった。キレた姉さんは手に負えないからなぁ。
すると、後方を歩いていたリカルドさんとスパーダがやってきた。


「なあ、名前。お前、菓子作り上手いのか?」
「え…あ、…好きではあるけど」
「名前はお料理も上手いわよ〜。よかったわね、これで将来のスパーダくんの胃袋は安泰ね!ああっ、羨ましいわ!私も男だったら名前をお嫁さんにしたいっ!」
「ちょ、アンジュ姉さん…っ!な、なんて話…っ!」
「…へ〜え、じゃあ将来のために味見してやるよ。今度俺にも作ってくれよ?」
「ちょっとスパーダまでっ!」
「俺も興味深いな。将来がない分、今度食わせてもらおうか」
「リカルドさんまで悪ノリしないでくださいっ!」
「俺は本気だぞ?」
「も、もうっ!」
「ストーップ、おっさん俺の彼女口説くなよ。…まあ、マジな話楽しみにしてるからな」
「ううっ…!」
「メシの話か〜?コーダも混ぜろー!」
「なになに?姉ちゃん料理上手なん!そら楽しみやなぁ!」
「今度アタシにも作りなさいよ名前!」
「イ、イリア…遠慮というものを…」
「何よおたんこルカ!アンタだって食べたいでしょ?」
「そ、それはそうだけど…。でも、いいのかな?名前」
「もちろん、いいよ」


みんなに圧倒されて、首を縦に振るしかなかった。…だけど、なんだか楽しみだなぁ。
大切な人たちに料理を食べてもらえるなんて、嬉しいな。

その日のことを思うと、自然と頬が緩まってくる。
色々あるけど、私…みんなと旅が出来て嬉しいな。…グングニルも、そう思うでしょ?……、あれ?




その日から、いつも私の中で微笑んでいたグングニルが、いなくなってしまった。





20111110



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