ルカが起きたのは、それから3日後のことだった。
アンジュ姉さんたちにはああ言われたけど…、ルカのケガはやっぱり私とお兄ちゃん…兄妹の責任だ。すぐに病室に向かい、頭を下げるとルカは困ったように笑いながら頭を上げて?と言ってくれた。そして、名前が無事でよかった…と笑ってくれもした。そんなルカに、私は感極まって飛びついたのだがすぐにスパーダに剥がされた。
「お前、ルカちゃまでもりっっっぱな男なんだぞ?」
「でも…ルカ優しいし…」
「ンなこた関係ねェんだよ!」
「痴話喧嘩はそこまでにしろベルフォルマ」
「ち、痴話喧嘩って…!」
物凄い台詞を吐きながらリカルドさんが入ってきた。何でもガルポス行きの船のチケットが手配できたらしい。
ルカがベッドから起き上がると、アンジュ姉さんがそれを気遣う。
「大丈夫?ルカ君、さっきもうなされてたでしょ?よく眠れてないんじゃない?」
「…実は前世の夢を見てたんだ。創世力には原始の巨人の意志が込められているらしい」
「どういう事?」
「詳しくはわからない。でも、創世に使う力ってのは本当ぽかったよ。…問題は、なぜその力を使って魔王は天上を崩壊させたのか、だけどね」
「…っ、…やっぱ、あたし、体調がよくないみたい」
急に頭を抱え始めたイリア。また…例の頭痛…、大丈夫なのかな…?
「じゃあ横になる?ベッドを用意するけど…」
「でも出る準備しないと駄目なんでしょ?船でゆっくり寝る」
「船酔いしないといいけどな」
「辛くなったら言ってね、イリア」
「アンタもね、名前」
「…あ、あはは…」
船に乗って、私は風に当たろうと思い甲板に出た。すると既にそこには先客がいた。…エルマーナだ。
彼女の隣に腰をおろすと、少しだけ真剣な表情をしたエルマーナが私のほうを向いた。
「姉ちゃんも、孤児やったんやな」
「…うん」
「…そっかあ…。あんな、これはウチの独り言や思うて聞いてほしいんやけど…」
「……」
「…ウチの親、行商人でな。小さい頃から親について各地を渡り歩いてたんや。でもある日、敗残兵崩れの盗賊に襲われて…」
「エルマーナ…」
「それから、ずっとあんな暮らし…しとった。寂しかったけど、色んな子の世話するのはハマったなあ…。アスラを育てたことがあるせいやろか」
ニヒヒ、と笑いながら言ったエルマーナを抱きしめる。
すると笑い続けていたエルマーナの体が小刻みに震え始めた。
「あんな、今まで同じ境遇の年上の人なんて…周りにおらんかったから…、自分のホントの気持ちなんて話せんかったんや」
「……」
「どれだけ話聞いてもろても、経験しとるのとしてないのでは、えらい違うし…、…やから…っ」
「…大丈夫」
「名前姉ちゃん…」
「いつでも話なら、聞くよ。…だから、我慢しないで?」
「…姉ちゃんっ!姉ちゃんっ!!」
優しくエルマーナの頭を撫でる。
まだこんなに小さいのに、この子はどれだけのものを抱えてきたのだろう。…私には、計り知れない。…それでも、彼女の助けになるのなら…。
ぎゅっと、小さなエルマーナを抱きしめた。
「お前も我慢すんなよ」
「わかってるよ」
あの後、エルマーナと分かれた私はスパーダと鉢合わせていた。どうやら彼女との会話を聴かれていたみたいで、今度は私はスパーダに抱きしめられていた。
彼に甘えるように抱きつくと、彼は私に触れるだけのキスをする。
「俺が、埋めてやる」
「…?」
「全部全部埋めてやるから、無理するなよ。寂しかったら、それを忘れるくらいキスしてやるよ」
「…キスしたいだけなんじゃないの?変態」
「う、うっせ、ばーか!」
どうやら図星だったようだ。
「でも、半分以上は本気だぜ」
「…わかってるよ、ばーか」
20111001