「ハスタ…、お前の兄貴だったんだな…」
「…うん。あー…でも、吃驚しちゃったな。…お兄ちゃん、あんな雰囲気じゃなかったもん」
「雰囲気っつーのか?…昔は、あんなのじゃなかったのかよ」
「…私の家って貧乏だったの。でも楽しく暮らしていたよ。家の裏に畑があってね、家族みんなで作物を作っていたの。私たち兄妹が毎日ちょっと遠くに流れてる川まで水を汲みに行くんだ。だけど、力のない私にはバケツは重くて持てなくて…そのたびにお兄ちゃんは優しく笑って手伝ってくれるの」
「ハスタが…?」
「うん、雷が鳴る日には私と一緒に寝てくれて…夕食で嫌いなものが出たら、コッソリ食べてくれて…、私の話しを笑いながら聞いてくれて…、少しお調子者だったけど…、とても優しくて大好きなお兄ちゃん…だった、けど…」


ケルム火山での出来事を思い出す。
血に包まれたお兄ちゃん、目は昔のようにキラキラと輝いていなかった。

そして、極めつけはあの喋り方……。昔のお兄ちゃんとは違う…、変わってしまった自分の兄を見ていられなかった。


「リカルドから聞いた。…ハスタは、ガラムの傭兵部隊に所属していたらしい」
「ガラム…?」
「俺も、ナーオスに行く前に戦場ってモンを体験したけど…気が狂いそうだった。…もしかしたら、アイツは…ずっとそんな場所にいたせいで…おかしくなっちまったんじゃないのか?」
「…なんで、そんな…」


…そもそも、お兄ちゃんは何処へ行っていたのだろう。
5年前のあの日、私はお兄ちゃんに待っていろと言われて、何日か過ぎた後…ナーオスの人に保護してもらって、今まで平和に生きてこれた。
だけど、お兄ちゃんは?

ナーオスの救護団体の人に聞いたが、村の中に生き残った人はいなかったという。だけど兄の死を確かめていないため、もしかしたら…兄は生きているかもしれないと信じていた。そして、お兄ちゃんは生きていた。
…でも、そうなるとお兄ちゃんはあの時…ナーオスの救護団体の人たちが村を見回っている時…どこにいたのだろう?もしかして、見逃されていたのだろうか?


「っ…」

そう考えると、どうしようもない気持ちで胸が一杯になる。
ああ、何故もっと兄を探さなかったのだろうか…、あの時兄を見つけることが出来ていたら…兄はおかしくならなかったのかもしれない…

色々なことを考えてしまって、頭がいっぱいになっている私。
そんな私をスパーダは優しく包み込んでくれた。


「名前、落ち着け」
「…でも…私のせいで…」
「さっき俺が言ったのは、もし…の話だ。…不安にさせるようなことを言っちまって、悪かった」
「…スパーダ、は…何も悪くない…」
「…名前も悪くないだろ」
「……」
「…まあ、次にハスタに会った時にでも聞いてみればいいさ。な?」
「お兄ちゃんに…?」
「まあ、まともに答えてくれるかわかんねーけどさ…。憶測だけで考えていると嫌なほうにばっか思考が進むぞ?…それに、お前…知らないことがあったらとことん追求するだろ?だからさ、ハスタに追求してみろよ」
「…追求…?」
「そう、追求。何かあったら、次は絶対に守ってやるからよ」
「スパーダ…」


私をぎゅっと抱きしめ、笑ってくれるスパーダ。
そんな彼の腕の中が心地よくて、目を細めているとスパーダの顔がゆっくりと近づいてくる。あと数センチで唇がくっ付きそうな所で、ドアが音を立てて開いた。


「名前!起きたって聞いたわよ!大丈…ぶ…」
「どしたんイリア姉ちゃん…って、あらま」


顔を出したのは、イリアとエルマーナだった。
彼女たちは私とスパーダの状態を見て、固まっている。


「お、お邪魔だったかしらスパーダさん」
「…ああ、邪魔だ。どっか行け」
「ちょ、ちょっとスパーダ!二人がせっかく…」
「ああ、ええよええよ名前姉ちゃん。ま、後は若いモンで楽しんだらええわ」
「ちょっと待ってよエル!名前!後で詳しく教えなさいよ!」


嵐のように去っていった二人。
スパーダに未だに抱きしめられていて、そしてあの二人にこんな状態を見られたのが恥ずかしくて俯いていると、スパーダの指が私の顎を持ち上げる。


「仕切り直し」
「…え?、んっ…」

先ほどしたのよりも深く口付けられ、全身の熱が顔に集まる。
ああ、もう!幸せだけど…は、恥ずかしいよ…!




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