「名前っ、起きて…お願いっ…!」

私の頭を優しく撫でる手の感触。少しだけ目を開けると、涙を流しているアンジュ姉さんがいた。
そして、傍らにはリカルドさんと…スパーダがいた。


「アンジュ、ね、さ…」
「!!名前っ!」

私が声をかけると、下を向いていた三人はすぐに顔をあげた。
一体どういう状況なんだろう…、頭がぽやぽやして…記憶が曖昧だ。何があったんだっけ…

すると、アンジュ姉さんが私をきつく抱きしめた。


「わたし、心臓が止まっちゃうかと…思った…」
「姉さん…?」
「セレーナ、名前は状況を理解できていないようだぞ?」
「…そうよね、ごめんなさい。…でも、あなたが無事で本当に良かったわ…!」


少しずつ意識がハッキリしてくるのと同時に思い出したのは、お兄ちゃんと再会した時のこと。
…あれ、ここは火山じゃない?…じゃあ、ここはどこ?お兄ちゃんは?あれ、あれ…?

私が首を傾げていると、リカルドさんがここは宿屋だということを教えてくれた。
そして、私が意識を失ってからのことをすべて教えてくれる。


スパーダたちが私を追いかけてケルム火山の祭壇まで来ると、意識を失った私を抱えたお兄ちゃんがいた。
お兄ちゃんは私を抱えた状態のまま記憶の場に入り、そこでゲイボルグとデュランダルが対決した時の光景を見た(やっぱり、さっき夢で見た光景は…記憶の場の影響だったんだ)

そして、そのまま皆と戦ってお兄ちゃんは敗れた。そこで、私を保護したまでは良かったのだが…






「嘘…ルカが?」
「ああ、ミルダが槍で貫かれた。…重症だ」


お兄ちゃんの言葉に乗せられたルカが、お兄ちゃんの攻撃を受けたらしい。お兄ちゃん自身も深い傷だったようで、その場は退いたのだが、それ所ではなくなった。
目を覚まさない私、重症を負ったルカ。すぐに皆でガラムの街まで運んだ。

そして今、私には姉さんとスパーダとリカルドさん、ルカにはイリアとエルマーナとコーダくんがついていた。



「…私の、せいだよね。私が勝手な行動をしたから、ルカやみんなを危ない目に遭わせてしまった…」
「それは違うわ」
「…でもっ!」
「いずれケルム火山には足を踏み入れなければならなかった。…即ち、ハスタと嫌でも対面しないといけなかったということだ。お前が気にやむ必要などない」
「……」
「…では俺はミルダの様子を見に行ってくる。今日は安静にしておけ」
「わたしもルカくんの様子を見に行くわ。スパーダくん、名前をよろしくね」


二人が出て行くと、気まずい沈黙が流れる。先ほどから一言も喋らないスパーダ。…きっと怒っているんだろうな。
謝ろう。…そう思い、私はおずおずとスパーダに声をかける。


「スパーダ、ごめんね…。みんなに迷惑、かけちゃったよね…」
「……」
「本当に、ごめんなさい…って、あ…」


スパーダが寝ていたベッドに肩膝を立て、私をぎゅっと抱きしめる。
あまりにも突然のことに頭が混乱する。慌てて逃げようとしたが、スパーダの手が震えていることに気がついた。


「スパーダ…?」
「怖かった…」
「…え?」
「お前がいなくなるんじゃないかって、思ったんだ…。お前を守ると、誓ったのに…」
「…」
「もう、お前を失いたくない。お前が、好きなんだっ…」
「…!!」
「前世なんて関係ねぇっ、俺は…名前が好きなんだ」
「スパー、ダ…」

そう言うとスパーダはベッドから降りて、私を見ないで続ける。


「…突然悪かった。ただ、今どうしても言いたかっただけだ、返事はいら…っ!」


私は、スパーダの背中に抱きついた。
体中の熱が、身体の中央に集まってくるような、そんな感覚が私を襲う。だけど言わなきゃ。自分の気持ちに、素直になるんだ。


「私も、私も…スパーダが好き…!」
「え…」
「私が…スパーダを好きなの。グングニルじゃない、私が…名前が、スパーダを好…」

最後まで言い切る前に、正面から抱きしめられた。
私も同じように、彼の背中に手をまわす。


「デュランダルとグングニルの想いでもあるけど、これは俺たちの恋だ。俺たちの、前世からの恋なんだ…」
「…うん、そうだね…」


すると、スパーダの顔がゆっくりと近づいてくる。私は、自然に目を瞑った。
ふわりと、マシュマロのような物が唇に重なった。ちゅっと音を立てて触れたソレは、スパーダの唇。

嗚呼、私の中のグングニルが嬉しそうに声をあげる。もちろん私も、幸せな気持ちになった。
恋を知らなかった私は、今日…本当の恋を知った。




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テーマ「人外ファンタジー」
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