イナンナが私を連れてセンサスへ亡命することを決めた。
私は何も文句は無かった。ただ、イナンナがそれで幸せなのであれば…それが私の幸せでもあるからだ。
「イナンナへの愛の祝福」
「ゲイボルグの狂気の体」
その二つの魂がこめられた私の体。
当然、狂った波長になってしまった。だけど、そんな私を変えてくれたのは…大きな愛だった。
センサスへ亡命する前日、デュランダルがやってきた。
デュランダルをアスラ様に献上するためだ。私とデュランダルは、前日の夜に同じ部屋に置かれていた。
不思議と話に花が咲いて、その晩は狂気に走ることは無かった。その日から、夜に外へ出て人を傷つけるのを止めた。
そんなことより、デュランダルと一緒にいたいと、そう思ったからだ。
デュランダルの体に寄り添う。正確に言えば、槍と剣が重ねられて置いてあるだけだけど。だけど私たちは体を持たない「モノ」だから、魂を重ねるしかできなかった。
いつの間に、こんなに大切な存在になっていたのだろうか…。お互いがお互いを求め合い、私たちは愛し合った。
魂が共鳴して、絡み合い、そして繋がる。
私たちには、願いがあった。
体を手に入れることだ。
だけど、それは現世では叶わない。では、来世に希望を託そう。
来世で必ずめぐり合えるように祈りながら、毎日毎日過ごした。来世で、「生き物」として出会えたら…
すべてを重ねよう。手も、唇も、身体も…。愛し合う証拠を、形で残したい。私たち二人の願いだった。
「……」
私は立ち止まる。やはり、ここは私に縁のある場所らしい。
先ほどから、前世でのことを色々と思い出す。デュランダルとの馴れ初めや、私の造られた意味、そして…何故私がここまで前世に…スパーダに固執していたのか分かった。
デュランダルと、グングニルの願いだったんだ。
肉体を持たない彼らは、お互いに触れることすら出来なかった。ぬくもりを感じることもできなかった。あんなに愛し合っていたのに…。
現世で叶わなかったのならば、来世で…と。
そして今、私はスパーダのことが好きだ。
これは、前世の思いだってもちろん関係していると思うけど…、でも運命だったんだ。
アンジュ姉さんに言われた通りに、自分の思いに素直になるんだ。…この恋は偽りのものではない。グングニルだけのものじゃない。…前世から続いている、私とグングニルの恋なんだ。
そこで、私は立ち止まる。…祭壇が見えた。…そして、光の渦の隣に立っている、男性を見て…何かがこみ上げてくる。
「お兄ちゃん…っ!」
私が声をかけると、ピンク色の髪の男性は振り返った。