私の名前は名前・エクステルミ。
レムレース湿原地帯のすぐ傍にある小さな集落で、寡黙な父と優しい母、陽気な兄との4人暮らしだった。貧しいながらも楽しく平和な日々を送っていたの。

だけど、5年前に起こったレグヌム軍とテノス軍の戦いに集落が巻き込まれて、焼け野原になってしまった。



―あの日









物凄い爆音がして、目が覚めた。窓から外を見ると、逃げ惑う人々…。何が起こっているのかわからなかった。
すると慌しい物音がして、お兄ちゃんが私の部屋に入ってきた。


「名前!すぐに逃げるぞ!」
「…え?」
「いいから!」


お兄ちゃんに担がれた私は、裏口から外に出た。そのすぐ後に、家の中から銃声が聞こえた気がした。集落のすぐ近くの森に逃げ込んだ私たちは、燃える家や逃げ叫ぶ人々を見ているしかなかった。
何が何だかわからない私。キツく唇を噛み締めるお兄ちゃん。


「お兄ちゃん…これ、なに?」
「…テノス軍が負けた。レグヌム軍が残っている兵がいないか探して、家に火を放っているんだ。ここにはレグヌム人がいないから、虐殺しても何も思わないんだろう」
「…お父さんと、お母さんは?」
「……」


お兄ちゃんは何も答えない。
あの銃声は?と私が聞くと、お兄ちゃんは私をきつくきつく抱きしめた。


「お父さんとお母さんは、…死んだんだ」
「……」
「俺が、この目で見たんだ。レグヌムの兵士に、撃たれた。俺は物陰から、見ているだけしか出来なかった。怖くて、怖くて…俺は、慌ててお前の部屋に行って、それからお前を連れ出して、逃げたんだ…逃げ出して、しまった…」
「お兄ちゃん…」


一夜明けた。だけど、私もお兄ちゃんも一睡もできなかった。まだ、集落は襲われていた。
レグヌム軍は、この森をすべて焼くことを決めたらしい。私とお兄ちゃんは、一瞬の隙をついて集落方面へと逃げた。
一瞬だけ、家だった場所を通ると…そこにはもう何も無かった。それから、お兄ちゃんの顔つきが変わった。

小さな小屋の隅までやってきて、私をそこへ押しやる。傍らに毛布とパン、お水を置いてお兄ちゃんは立ち上がる。


「名前、兄ちゃんが良いって言うまで隠れてろよ」
「嫌だあ!お兄ちゃんまで、行かないで!置いていかないでよっ!」

私がお兄ちゃんに縋り付くと、お兄ちゃんは困ったように笑う。いつもは陽気なお兄ちゃん。だけど今は別人のようで、少しだけ怖かった。
爆音が鳴り響く中、先ほど死んでいる兵士から拝借した槍を地面に置いて、お兄ちゃんは私をきつく抱きしめる。



「兄ちゃんは大丈夫だから。な?絶対に迎えに行く。だから、待ってろ」
「お兄ちゃん…!」
「大切な村を守らなくちゃいけないからな。…じゃあ大人しくしてろよ?」
「うんっ!」
「よし、良い子だ。じゃあ行ってくるな!」
「いってらっしゃい!」

お兄ちゃんに迷惑をかけたくなくて、私は笑顔でお兄ちゃんを見送る。…本当は泣いてしまいそうだった。
それから何日か経ったけど、お兄ちゃんが帰ってくることは無かった。あれだけ聞こえていた爆音が聞こえなくなったのは、それから一日後。



私は一人で泣いていた。
お兄ちゃんも、帰ってこなかった。お父さんもお母さんも、もういない。私は、一人になってしまった。





「っ、ここに子供がいますっ!」



私は、そのまま意識を失った。
次に起きたのは、暖かいベッドの上だった。






ハスタ・エクステルミ


私の実の兄だ。生きているなんて、思っていなかった。
私は無我夢中で火山道を走る。早く、早く会いたい!早く会いたいっ!






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