私は貧しい農村に生まれた。
名前という名を与えられて、寡黙な父と優しい母、陽気な兄との4人暮らしだった。貧しいながらも楽しく平和な日々を送っていた。
だが、そんな平和は跡形も無く崩れしまった。
村がレグヌム軍とテノス軍との抗争に巻き込まれて、焼け野原になってしまったのだ。

父と母は抗争に巻き込まれて死んでしまった。兄は行方不明のまま。
私は一人焼け野原になった村を想い泣いた。

それから救護に訪れたナーオスの教会団体の人たちに拾ってもらって、私は村を去った。


ナーオスに住むことになって、早5年。12歳だった私は17歳になった。
そんな私に一番良くしてくれていたのが、3つ年上のアンジュ姉さん。読書とスイーツと省エネ活動が彼女を支える3つの柱であり、最近はちょっぴり太り気味だと嘆いている聖女様だ。
アンジュ姉さんは私に本当の姉のように接してくれて、家族を失った悲しみから私を救ってくれた。

彼女は奇跡の力を持っていて、街の人たちに崇められているが私は姉さんは普通の人間だと思う。犬が嫌いだったり、意外と口煩かったり。休みの日には実はワインばかり飲んでいたりする普通の女性ということを私は知っているから。

今は聖堂の中に部屋を借りて、二人で仲良く住んでいる。私は、先ほども言ったように変な夢を見る以外は至って平凡な毎日を過ごしていた。


だが、またしても私の平穏な日々は崩れ去ったのだった。


ある日、アンジュ姉さんに着いて各地を巡回をする旅から帰ってきたときの事だった。
数日間空けていただけなのに、聖堂の中に奉納物を狙った盗賊が入り浸ってたのだ。
怒ったアンジュ姉さんは単身で聖堂に乗り込んでいった。…その直後にナーオスの聖堂は崩壊した。

アンジュ姉さんは無事だった。盗賊も追い払えた。だけど、ナーオスの街の人たちは姉さんをまるで化けものを見るかのような目で見た。
今まで病気などにかかって、姉さんに治してもらった人たちもみんな、みんな、みんな。

私はナーオスの人たちに反抗したが、聞き入れてもらえなかった。


人々は口々に言う。

アンジュ・セレーナは異能者だ。醜い異能者だ

異能者。最近有名になってきた言葉だった。なんでも普通の人とは違うそうだ。…だが、何度も言うようにアンジュ姉さんは普通の人だ。優しくて少しだけ口煩くて、スイーツが大好きで、とても可愛らしい私の大好きなお姉さんだ。

そのすぐ後に、異能者捕縛適応法によりアンジュ姉さんは軍に連れて行かれてしまった。ナーオスの人たちが軍に密告したからだ。手のひらを返したように憎み、煙たがる。それが許せなかっった。
連れて行かれる間際のアンジュ姉さんの顔は、死んでいた。私は吐き気がした。


アンジュ姉さんがいなくなってから、何日経ったのだろう。
どこへ連れて行かれたのか分からない私はどうする事もできず、ただ壊れた聖堂の前で祈り続けた。
次第に私の心は悲しみから人々への恨みへと塗り替えられていった。

2度も私の大切なものを奪った軍。許せない、許せない。
私は聖堂の近くにあった倉庫から槍を手に取った。何故だか、懐かしい感触だった。あ、そうか。そういうことか。


私は、槍だった。グングニルと呼ばれる、槍だった。

「そっか、なーんだ」

月明かりが私と槍を照らした。
そっか、そうか。そーなんだね。

過去の記憶、それは前世の記憶だった。
今言われている異能者。私ももしかしたらその仲間なのかもしれない。

「私は、異能者…」

ふと笑いがこみ上げてきた。


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