私は大聖堂の裏にある森にやってきた。
ここは、私のお気に入りの場所だ…。アンジュ姉さんに叱られた時や、嫌なことがあったとき…家族のことを思い出したとき、いつもここに来て一人で泣いていた。


『グングニル』


スパーダにそう呼ばれた時、ショックを受けた。
…だけど、それは都合が良すぎると思う。…だって、私もスパーダとデュランダルを重ねることがあるから。
分かっている。…無意識だったってことなんか、分かっている。…だけど。

スパーダに、そう、スパーダにそう呼ばれたのがとてもショックだったのだ。



「(私は…、スパーダのことが…好きなのかな?)」


正直、分からない。…私の気持ちと、グングニルの気持ちは…確かに混ざっていた。
以前ナーオスで街の人たちを襲った時、この前夢で見たようなグングニルの狂気が、確かに私の中にもあったのだ。
だから…スパーダへの気持ちだって、自分の気持ちなのかどうか分からない。


…すると、私の視界に影が差した。見上げると、アンジュ姉さんがいた。



「姉さん…」
「名前は何かあるとすぐにここに来てたよね」


姉さんはそう言うと、座っていた私の隣に腰掛けた。
そして、ポケットから綺麗に折りたたまれたハンカチを取り出し、私の涙を拭う。…そして、何も言わずに私の横にいてくれた。

…少しだけ時間が過ぎて、私はようやく口を開いた。



「…スパーダにね、グングニルって…呼ばれたの」
「…うん」
「嫌だった。…だけど、私も時々…スパーダのことをデュランダルって思っちゃうんだ」
「…」
「なのに、自分がグングニルって思われるのは…嫌だって、思うのは…都合が良すぎるよね」
「…そんなこと、ないと思うけどな」
「……」
「名前はもう少し、自分の気持ちに素直になってみるといいよ。…今すぐに割り切るのは難しいかもしれない。でも時間はまだあるんだから、焦る必要なんて全くないよ?…ゆっくり自分の答えを見つけていくといいんじゃないかな」
「自分の…気持ちに…」
「さてと、わたしはお邪魔なようだし…資料をまとめに行くね。早く戻ってきてよ?」


アンジュ姉さんはそう言うと立ち上がり、木の陰を見て少しだけ笑って、それから図書館へ戻っていった。
そして、そんな姉さんと入れ替わるように木の陰から出てきたのは…


「スパーダ…」
「よ、よお」


スパーダだった。正直、今二人きりにはなりたくなかったのだが…、彼は私と話がしたいようで、先ほどまでアンジュ姉さんが座っていた場所に腰を下ろした。
少しの沈黙…破ったのはスパーダだった。


「…すまなかった」
「…!」
「あんなコトしちまったのと…、…お前を、グングニルって呼んだコトを、謝りたくてな」
「スパーダ…」
「無意識、だった。だけど、お前は名前だ。…本当にすまな「…ごめん」…え?」


私はスパーダの言葉をさえぎる。…スパーダに伝えよう、今まで感じてきたことを。


「私も、スパーダと同じように…、スパーダを、デュランダルだって無意識に思っちゃうことが、あるの…」
「…そう、か」
「自分のことを棚にあげて、勝手に怒って…本当にごめんなさい」
「…前世で恋人同士、か」
「?」
「…お前さ、覚えてる?最期の最後にデュランダルがグングニルに言った言葉」
「…うん、覚えてるよ」
「なんか…痒いよな。…まあ、なんというかさ…。俺たちなりに、やろうぜ。難しいかもしれねーけど、デュランダルやグングニルのことに囚われずによ、俺はスパーダ・ベルフォルマとして、お前は名前・セレーナとして」
「うん、そうだね」



納得はした、だけど少しだけ悲しかった。
矛盾していると、自分でも思うけど。スパーダと私を繋ぐものは、今のところ前世の仲だけだ。

だけど、スパーダは前世に囚われずにやろうと言った。私はデュランダルに言われた言葉をもう一度思い出す。


「グングニルよ、来世だ。来世で我と共に…」


スパーダが言いたいのは、この言葉に囚われるな…ってこと。だけど、私は心のどこかで密かに期待していたのかもしれない。
「来世で我と共に」即ち私とスパーダが、現世で結ばれるということだ。…それが、否定されてしまって…悲しかったのだ。




…やっぱり、私はスパーダのことが好きなのかもしれない。





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