「それにしてもマティウスのヤツ、強引なことすんのねえ!許せない!」


シアンくん…もとい犬男を追い払った私たちは、再び鍾乳洞の入り口へ向かうために歩いていた。
イリアが憤慨したようにダンダンと足を踏み鳴らしながら歩く。

「とにかく、創世力が大した価値のあるものだということがよく理解できた」
「ああ、アルカ教団のヤツらめ。手段を選ばないもんな」
「…犬男くん、まだ小さいのに。…あんな子まで使うなんて、酷いな…」
「まあ犬男も犬男でマティウスの言うことに魅せられてたからな、あれはアレで別にいいんじゃねーの?」
「…そう、なのかな」

スパーダに言われても、どうも納得いかない。
それにしても親は一体何をしているのだろう?アルカに入って…何も思わないのだろうか?…それとも、犬男くんも私と同じ…なのかな?


「そういえば、前世の話だけど、ラティオも国を挙げて侵略してきたもんね」
「まったく、はた迷惑だっての!」
「あと、テノスのお貴族様も探してるのよね。でも、みんなが世界の破滅を目指しているとは思えないけど」
「理想郷へ導くか…。これは創世力を利用して、という意味なのだろうか?」
「なあ、アンジュ。ラティオは何のために創世力を求めてたんだよ」
「…思い出せません。ルカ君、アスラさんはなぜ創世力を?」
「ん…、わかんない」
「あのさ…、さっき記憶の場で見たアスラ様の最後の言葉…おぼえてる?」
「…確か…完全なる世界を作る目的にまた一歩近づけた、だったか?」

リカルドさんの答えに、頷く。
そう、完全なる世界を作るということは…「滅ぼす」とは違うのだ。アスラ様が創世力を求めた目的は、「創造」なのだ。…結果は、崩壊だったけど。


「そうだよね、…アスラは天上を統一したんだよ。世界を崩壊させるためのはずがない。でも…じゃあ、何で…」
「…さっきのガキは理想郷とか何とかおめでたい発言をしてたな。それと関係あるのだろうか?…しかし、そんな事が可能なのか?」
「さあな、犬の言う事だろ?アテになんのかな」
「…ひょっとして転生者たちだけの楽園を作るつもりかな?」
「そうかも。だったら僕らも幸せに…」
「なれないって!パパもママもいないじゃない!」
「転生者…、前世を持つ者達…。間接的に天上を再現するつもりなのかもね」
「おっ、ようやく出口やで」


エルマーナが、一人で先に駆け出していく。きっと、戻ってきた子たちに説明をしにいくのだろう。
それにしても分けのわからないことが山積み。…ほんっとムカムカするなあ…。早く知りたいな、ううーん。

すると、よほど難しい顔をしていたのか。アンジュ姉さんが私の眉間に人差し指を当てる。


「ここ、皺寄ってる」
「あ…」
「考えすぎるのは、あなたの良いところであり、悪いところだと思うわ。きっとこれから分かるから、焦らないの」
「…うん、そうだ「なにやっとんっ!!」


私達は顔を見合わせる。先ほどの住居スペースには、エルマーナの姿はなかった。
そして、頭上から子供の叫び声とエルマーナの切羽詰った声が聞こえる。…なにやら良い雰囲気ではなさそうだ。

私達が急いでマンホールを上ると、見えたのは巨大な男と小汚い男に捕まった二人の子供と、意地悪そうな親父、そしてそいつらと向かい合うエルマーナの姿だった。


「おうおう、盗人の親玉の登場か。貴様の子分は捕まえたぞ。さあ、観念するんだな」
「はなせっ!はなせよーっ!」
「子供達を放しなさい!泣いてんじゃないのよっ!」
「黙れ!お前もまとめて処分しちまおうか!」
「この子たちが何をしたと言うのです!」
「ふん、あんたのようなお嬢さんなら耳に入れたことを後悔するような、薄汚い行為を繰り返したんだよっ!」
「…」
「おっさんよぉ、参考までに聞くけど、そのコら、どーなるんだ?」
「知れたこと!ガルポスの農場に連れて行くんだよ!あそこでは労働力が貴重でな。いい金になるんだ」
「ひどい!そんなにひどすぎるよ!」
「ふん!薄汚いコイツらが悪いんだ!さっさとくたばってくれればこんな手間を掛けずにすんだんだがな!」
「…んなアホな。ウチかて、好きで生まれて来たんちゃう…」
「オラ、お前ら!とっとと失せろ!」
「…ちょお待ちぃや…。その子ら置いてってもらうで?」

すると、突然…エルマーナを纏う空気が変わった。
後ろに白い龍神…ヴリトラが見えた。


「な、なんだこのガキ!おおおおお前が首謀者だろうが!おい、お前ら!こ、この不気味なガキを取り押さえろ!」
「ウチ、今、めっさ機嫌悪いねん。来んといてくれへん?」
「ひいっ!おばけーっ!!」
「お、おい!こっちは金を払っとるんだぞ!」
「ふん…ガキのくせに大した闘気じゃのう〜」
「おお、お前が残ったか!グフフ、こいつはこの界隈でもっとも凶暴で凶悪な男だぞ!!」
「ど〜ら、ちょっくらワシが遊んじゃろうかのお」
「遠慮はいらん。ガチで来なケガすんの自分やで?」
「抜かしよるわい。吐いた唾飲まんとけよっ!!」


巨大な男の後ろにも、鬼が見えた気がする。…コイツも転生者か…!
男が巨大な腕を振りかざすと、エルマーナはそれをさらりと避けて、男の脳天目掛けて足を振り下ろす。…凄まじい一撃だった。

巨体は一瞬にして倒れて、辺りに轟音が響き渡る。


「馬鹿者!これ以上騒ぎを大きくするな!役人にバレてしまうではないか!」
「…その言葉の意味、詳しく伺いたいですね」
「つまり、子供の拘束は法にのっとった措置ではなく、貴様の私的制裁である。そう解釈して構わんな?」
「あわわわわわ」
「その上、この子らを外国に…だと?貴様の罪、とてつもなく重い。そう…だな、弾丸一発分か」


リカルドさんがライフルを向けると、男は焦りながら巨大な男に金を払うから弾の楯になれという。とことん呆れる。
もちろん巨大な男は怒って、男にたてついた。更に焦った男は、その場から逃げようとする。そこに天術がぶち当たった。


「おいおい、やりすぎだろう」
「リカルドさんこそ、脅しはいけませんよ、脅しは。それに、弱めにしておいたから大丈夫ですよ。せいぜい一日ノビ続けるくらいですから」


手をパンパンと叩き、私は満足気に笑う。今の天術?…ああ、私が唱えたものだけど?…ああいうヤツが一番気に食わない、仕方ないでしょう?
後ろでスパーダとイリアが「エゲツねえー」と言っていたが、聞かなかったことにしよう。



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