鍾乳洞から出るために入り口へ向かっている途中に、犬が二匹いた。まるで私たちを待ち伏せていたかのように、行く手を阻んでいる。
あ、そういえば…。
アンジュ姉さんのほうを見ると、やはり。顔が真っ青になって、視線を逸らしていた。だ、大丈夫かな。

皆が、何故こんな場所に犬がいるのかと疑問に思い顔を見合わせていると、アンジュ姉さんがそろりそろりと犬に近づく。…な、なんで近づいたの。犬嫌いなのに…。



「だ、駄目よみんな…興奮しちゃ…。緊張が犬に伝わっちゃうっ。こういう時は落ち着いて目を見て…」

そう言った瞬間、犬が吠えアンジュ姉さんは飛び上がり、すぐに私の後ろへ逃げ隠れた。
そして、何も無かったように涼しい顔をして早口で喋り始める。


「と、いう事で、動物の扱いは難しいから、決して油断しちゃ駄目。喉を狙って来るから」
「…姉さん、怖いならしばらく隠れておきなよ」
「この気配、ヴリトラだね。天地を轟かす龍神の気は忘れもしない」

第三者の声が聞こえた。振り向くと、小さな男の子が歩いてやってきた。犬の隣までやってくると、愛おしそうに二匹の犬を撫で、そしてエルマーナの方をじっと見つめる。

「ん?自分いったい…」
「ボクだよ。わからないか?」
「…!創世力の番人、ケルベロス。あんたかいな」
「ケルベロス?」


獰猛な3つ首の獣、創世力の番人…。創世力を守るために深い洞穴にしばられ、転生をしてもケルベロスとして再び生まれ変わる…。未来永劫そのために縛られ続ける存在…。


「今はシアンって名さ。創世力はどこだ?」
「ええ〜?なんでウチに聞くん?どう考えても自分のんが詳しいやん」
「天上崩壊を見続けたお前なら、地上のどこに落ちたのか知ってるはずだろ?ボクに教えろ!」
「ねえ、坊や。一つ聞いていい?なぜ創世力を探すの?」
「…あれ?さっきの記憶、変じゃない?」

その言葉に、シアン君に向けていた視線をルカに向ける。イリアがどういうことか尋ねると、ルカは何かを考えるように腕を組んだ。


「アスラはなぜ創世力を手に入れたかったんだろう?」
「確かに、天上を消滅させる意味がない。苦労して天上統一を果たしたというのにな」


確かに、おかしい。
アスラ様は創世力を求めていた。彼は「完全なる世界を作る」と言っていた。だけど、創世力は天上を滅ぼした。おかしいな、創世力があれば完全な世界を作れるんじゃないのか?もしかして、アスラ様は創世力の本当の力…即ち、「滅ぼしてしまう力」のことを知らなかったのではないだろうか?うーん、でもなあ…

何だか納得がいかない。するとアンジュ姉さんとシアンくんが同時に口を開いた。


「でも、わたしの記憶では創世力は…「ボクを無視するな!創生力について聞いているのはボクなんだ!」
「知らんモンは知らんやん。自分、もう帰ってエエんちゃう?」
「とぼけるな!お前が知らないはずないんだ!」
「繰り返すが、なぜ創世力を求める?返答次第では…痛い目に合ってもらうぞ?」
「リカルドさん、子供相手にそんなエゲツない脅しは…」
「び、ビビらそうたってそうはいかないんだからな!…その力を使って、理想郷を築くためだ!」

理想郷?…アスラ様の言っていた、完全なる世界…ということ?
「創世力」とは…一体なんなのだろう?「創る」「滅ぼす」…うーん、わからない。少しムカムカするけど…記憶が戻っていけば、わかるのかな?


「口が軽いじゃねーか。んで、その目的は…アレだな?お前、アルカ教団のヤツか」
「そ、そうだよ?悪い?マティウス様は素晴らしい人だ!救世主となるお方なんだよ!理想郷の導き手になる人なんだから!」
「浅薄なお題目だな。教わった事をただ闇雲に暗唱するだけじゃ身の肥やしにならんぞ?」
「せんぱ…、…意味はわかんないけど、ボクをバカにしてるんだな!思い出せないんなら、思い出すまでヴリトラはボクらが預かる!来い、ヴリトラ!」
「君は!…ただ一人天上で生き続けたヴリトラの悲しみをわかっているのか!僕たちはやっと巡り合えたんだ!君なんかに彼女の寂しさをいやせるだなんて思えない!」


ルカの言葉に、少しだけ驚いた。
だって彼は…いつもびくびくしている印象しかなかったからだ。間違ったことをきちんと相手に向かって言うことができる…、かっこいいな。なるほど、こういう所がアスラ様と同じなんだな…。


「な、なんだよ、そんなこと知るか!邪魔するってんなら、ムリにでも連れて行く!ケル、ベロ!かかれ!」

すると、シアン君が2匹の犬に命令した。…と同時にアンジュ姉さんが悲鳴をあげる。


「ア、アンジュ姉さんはシアン君を狙ったらいいよ」
「でも、怖いのよおお!」
「わかった、わかったから!私が守ってあげるから!」
「…アンタ、大変ね…」





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