(微グロ表現アリ)




アスラ様が目の前から消えた。イナンナも、オリフィエルも、サクヤもヴリトラもデュランダルも…みんなみんな目の前から消えてしまった。
ただ一人、真っ赤な床の上でグングニルだけが残った。狂ったように笑いながら、自らの身体を高速で回転させ、誰彼構わず切りつけていく光景に、私は悪寒がした。

それは、イナンナが子供の頃だった。
彼女が寝てからそっと抜け出し、私は見境なく通行人や軍人を斬っていった。イナンナには内緒だよ?イナンナに知られたら幻滅されちゃう、もう一緒にいられなくなっちゃう。そう考えると寂しくなっちゃうけど、これだけは止められなかった。

真っ赤な床は、血で濡れた大地だったらしい。狂っている、気持ち悪い、ありえない…!
それと同時に思い出す、そうか…これはデュランダルに出会う前のグングニルだ。人を傷つけ快感に浸る、殺人鬼だった。自分の体に血が付着するたびに、ゾクゾクと震えた。ああああああああああああ、狂ってる狂ってる狂ってる狂ってる狂ってる私は違うグングニルは違う私じゃない私じゃない狂ってるおかしいおかしいおかしいけど、楽しかったんだ。…楽しい?違う、違う、違う!おかしい、私はグングニルじゃない、チガウッ!









「おい、名前!大丈夫か!?おいっ!」
「あああああ、ああ、いやだ、ちがう、ちがうっ!私は、私はグングニルじゃないっ!」
「…!おい、名前!しっかりしろっ!」
「うあ、あ…、あ、あれ?スパーダ?」


気がつくと、私は座り込んでおり、傍にはスパーダが肩膝をついて私を心配そうに覗き込んでいた。…あれ?どういう状況?
アンジュ姉さんが泣きそうな顔でこちらへとやってくる。


「名前っ!」
「うわっ!」


アンジュ姉さんに突然抱きしめられて、何が何だか分からなかった。スパーダに助けを求めると、彼は珍しく難しそうな顔をしてこちらを見ていた。


「お前、さっきまで凄い形相で叫んでいたぞ…。覚えてねえのか?」
「叫んで…?」


私は思い出す。…アスラ様が覇業達成をした場面を見た後、いきなり違う場面が広がった。
それは、私はデュランダルと出会う前の話だった。夜な夜な外に出ては誰彼構わず斬るグングニルの姿。…そうか、私は…そんなことを繰り返していたんだ。

ゾッとした。正直言えば思い出したくなかった光景だ。デュランダルと出会う前の自分がおかしかったことは覚えているけど、ここまでだったなんて…。
私が顔を青くしていると、今まで私を抱きしめていたアンジュ姉さんが心配そうに覗き込んできた。


「名前、何か嫌なことでも思い出したの?それとも、どこか痛いところとか…」
「だ、大丈夫だよアンジュ姉さん!全然、ピンピンしてる。なんかいきなりアスラ様とかの記憶を思い出して混乱しちゃっただけだから」
「名前も見たの?」
「もってことは…ルカも?」
「僕だけじゃない、みんな見たんだよ!センサスが統一を果たした時の光景…だったよね」
「さっきの光の渦は…一体何だったんだ?」


アンジュ姉さんが、ナーオスの聖堂で見たという「記憶の場」について話し始める。だけど、私はそれ所ではなかった。
皆が見たのは、センサス統一の場面だけ…なの?…私の、あの記憶は見ていない…ということ?

少しだけホッとした。…良かった、グングニルの記憶とはいえ…あまり他の人には見られたくない光景だったから。



「ほな、さっきみたいなん他んトコにもいくつもあるっちゅう事?」
「ありうるな。これを巡って回れば…」
「どんどん思い出せて楽しゅなるっちゅうワケやね!!」

ん?エルマーナ、…今何て言った?思い出せてって、もしかしてこの子も…


「君も見えたの?」
「せや。ウチ、ヴリトラやってん」
「ホントに!?」
「ウソや」
「…なんだよ。まったく驚かせやがる」
「ってゆうのもウソっ。ウチ、ヴリトラやってんて。自分はなに?アスラ?」
「アスラは僕だよ」
「あんたかいなあ!なんや、アスラと違ぉてほっそい身体しとんなあ。まあエエわあ、これからたっぷり食べな?ウチが頑張って食わせたるから」


これは驚いた。エルマーナも転生者だったとは…。それに、ヴリトラか。
さっき見た、サクヤ以外の全員がここにいるなんて…すごい偶然だよね…


「ちょっとちょっと!ホントにあんた、龍だったの?」
「そうそう、デッカイ体で大空を飛び回り、ラティオの軍勢を蹴散らすんは爽快やったなあ!自分はアレか?サクヤか?」
「ちっがうわよ!なんか間違われるの、ムカツクんだけど」
「なんや、イナンナの方かあ。仲悪いんは相変わらずなんやな。ともかく、昔から見てた夢に意味があったんやねえ。ソレわかって、良かったわあ」
「あれは前世の記憶なんだよ。僕たちは前世で同じ世界に生きていたんだ」
「へえ〜、前世やったんかあ…。なんか納得やあ。ふ〜ん、なるほどなあ。…ちょいちょい夢で見ててんけどな、いっつも寂しなんねん」
「どうして?」
「天上いうんやったかな、あの世界、滅んでまうねんけど、ウチ一人だけ取り残されんねん…。みんな死んでもうて、ウチたった一人…ずーっと一人やねん」
「…そう」
「最後までアスラの名前、呟いとったなあ…。ほんで、そのまま…何百年…、いや、ヘタしたら何千年、一人っきりやねんな。んで、この寂しさが永遠に続くんかなあと思ったら、大抵目ぇ覚めんねん。ま、目覚めてもあんま変わらへんねんけどね。…仲間に話しても、誰も取り合ってくれへんかったし」


ヴリトラは天上界において、創造の神・原始の巨人から生まれた神の始祖。他の神々とは比べ物にもならないくらいの長寿を誇る。
それが結果として…彼女の孤独を招いてしまったのだ。

ただ一人生き続ける…。転生した今でも、孤児として孤独な生活を続けるエルマーナ。こんなに小さいのに、辛いだろうな…。


「寂しかったのね…、おいで、抱っこしてあげる」
「…ん、エエわ。ウチ今、嬉しいねんで?なんか友達出来たっぽいし…。でもまた寂しなったら、抱っこしたってな」


すると、今まで黙っていたリカルドさんが口を挟む。
どうしたのかと思い彼を見ると、何かをじっと見つめていた。視線の先を見ると…

コーダ君はキノコらしきものをハムハムと口に入れていた。…え、あれって…!


「その目的のキノコだが、コーダが見つけて…食ってる」
「って、なんで気付いたら止めないのよォ!」
「思い出に水を差すような無粋な真似はしたくないのでな」
「マズいな、しかし!マッズイなー。やっぱキノコは汁に入れるのが一番なんだな」
「なんやの、このクソネズミはあ!飼い主誰やのん?…とりあえず、全部食べたらアカンで?残ってる分渡しい」

エルマーナがコーダ君からキノコを引っ手繰ると、それをまじまじと見る。
キノコは一口食われていただけで、形もちゃんとしていて、綺麗だった。…良かったー…


「…ま、こんだけあったら充分やろう」
「じゃあ戻ろうか」
「今頃、他の子も仕事から戻って来とる頃や。みんなに会わせたるわ」


とりあえず、マンホールの近くまで戻ることになった。


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