鍾乳洞に入ってしばらく行くと、祭壇があった。
…教会による教えが世に広まっていなかった時代に、各地に原始的な宗教儀式の場としてこのような祭壇が設けられていたらしい。ここもその一つなのだろう。

祭壇には文字が刻まれている。…見慣れない文字のはずなのに、不思議と意味がわかる。きっと、天上で読んでいた頃の記憶がなんとなくあるんだろうな。


「罪を悔い改め、反省を終えた。だから天に戻してくれ、といった内容の経文のようだな」
「このような経文は、教会が今の形式に統合される以前の、原始的な宗教に見られます。この規模からして…ここはかつての信仰の中心地的な役割を果たしていたのでしょう」
「なんで廃れちゃったの?」
「それを語るには、教会史書5冊分の内容を講義しないとね。あなた、興味ある?」
「オレがいない所で頼むな、その話」
「ルカが聞きたいって!その話」

スパーダとイリアの漫才みたいな会話。巻き込まれたルカは困惑気味だ。…可哀想に。
すると退屈していたエルマーナとコーダくんが早く行こうと急かす。


「そうよね、つまらないよね…こんな話…」
「そんな事ないよ。僕は興味あるけど」
「ルカ君はいい子ね。個人的に付きっきりで手取り足取り教えてあげちゃおうかな」
「……!あ、やっぱオレもいい?」
「……(ムッ)」
「勉強嫌いのスパーダ君には経文の筆写から始めてもらおうかな。一ヶ月も続ければ、立派な説法師になれるかもよ」
「うげっ、勘弁だぜえ」


スパーダってホントスケベ。本当にありえない!…ううっ、何で私こんな事でイチイチ反応してるのよ…!別に私、スパーダのことが好きなわけじゃないでしょ?私が好きなのはデュランダルなんだか、ら…?

え、「私」は「デュランダル」が好きなの?違うよね、「グングニル」が「デュランダル」を好きなんだよ?じゃあ「私」は誰が好きなのかな?…「スパーダ」…?いや、そんなことは無い。だって、こんなにスパーダが気になるのは…グングニルのせいだもの。え、じゃあ「グングニル」は「スパーダ」が好きなの?…うう、混乱してきた。


するとリカルドさんが私の傍へやってきて、「どうかしたのか?」と聞いてくれた。
私は我に帰って、首をフルフルと振ると「何でもありません!」と言う。本当に何でもないのだ…、私は私。グングニルは前世。デュランダルはグングニルの恋人。スパーダはただの仲間。これでいいじゃないか。






「なんやコレ?」
「これは…」

先ほどの祭壇から少し進んだところに、光が渦巻いている場所があった。
その渦を見て、アンジュ姉さんが何かを思い出したかのように呟く。私がアンジュ姉さんに、知っているのか?と聞く前にイリアがその渦に近寄り渦に触れた。


「触って大丈夫か?」
「平気へーき!ほら、別に危険は…」










『引けーっ!アスラとヴリトラだー!死にたくなければ地の果てまで逃げろーっ!撤退、撤退ー!』


辺りが眩しく光ったと思えば、次に見えたのは鍾乳洞などではなく、懐かしい天界だった。…ああ、また記憶が蘇っているのか。
見えたのは、逃げ惑うラティオの民とアスラ様、それに白い龍神…ヴリトラだった。彼女はアスラ様の育ての親だったっけ。


「聞けい!このアスラ、この一戦の勝利をもって天上界統一を果たしたと宣言す!戦闘は最早無意味!このアスラ、ラティオの民をも手厚く遇する事を約束しよう!」
「これでしばらく戦納めか。寂しいが、これも定め」


っ、デュランダル…!ドキリと胸が跳ねた。ああ、やはり愛おしい。顔が赤くなってくる、嗚呼…デュランダル、会いたい、会いたい…
すると遠くから一人の女性が歩いてきた。…イナンナだ。彼女の手には…グングニル…私がいた。


「アスラ様…とうとう統一を果たせたのね」
「その通りだ、イナンナ。これでお前に、この世界がかつての美しさを取り戻す光景を見せてやれる」


アスラ様はイナンナが手にしていた私を手に取り、デュランダルと重ね合わせるようにして地面に置いた。
頭上ではアスラ様とヴリトラが話をしていた。それを気にせずに、デュランダルとグングニルは会話を始める。


「デュランダル…、お疲れ様でした」
「ああ、グングニル…。お前もゆっくり身体を休めよ」
「…ええ。…貴方が無事で本当に良かったです」
「…我も同じ気持ちだ、グングニル」


な、何だか恥ずかしいな。…幸せな場面ではあるけど、これってラ、ラブシーン…だよね、あはは。
すると、足音が聞こえる。ふと意識をそちらに向けると、サクヤがいた。何だか懐かしいな、イナンナによく愚痴を聞かされていたっけ。アスラに近づく女がいる、って。


「アスラ様、オリフィエル殿が参られております」
「そうか、通せ」
「あ、あの、アスラ様…、覇業達成おめでとうございます」
「ああ、これもお前の助力あってこそだ、まことに感謝し…おお、オリフィエル殿」
「あ…」


サクヤは報われない女だった。
「花と契ると短命になる」花の精であったサクヤには、そんな謂れを恐れてアスラ様に思いを伝えることが出来なかったのだ。
結局アスラ様はサクヤではなく、イナンナを選んだのだけれど…、少し可哀想ではあった。


「オリフィエル殿。俺の戦勝を祝いに来たにしては表情が優れぬ様子だな」
「ヒンメルが…死んだ。いや、殺された…。寝返った私への嫌がらせか、あなたへの同調者を減らす目的か…」
「あるいはその両方か…。俺に与した目的が、そのヒンメル救出であったな」
「私は不実なことをした!あなたの勝ちの報せを聞き、つい酔いしれたのだ!その瞬間、私はヒンメルを忘れてしまっていた…、あの子は私を待っていたろうに…」
「すまぬ…」
「…あなたに謝られるいわれはない、…かくなる上は、ヒンメルと等しく志を有したあなたに仕えるのみ」
「俺の元に来てくれるのか」
「受け入れて下さいますな?愛弟子一人救えぬ、愚昧なる身であるが」
「無論だ。これで…完全なる世界を作る目的にまた一歩近づけた。…ケルベロスの承認を得、そして…手に入れるのだ。創世力をな…」





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