転生者は身体能力が普通の人より優れていて良かった。…大人でそれも兵士から逃げるんだもの。転生者じゃなければ、まず無理だ。
とりあえずマンホールの中まで逃げた私たち。全速力で走ったので、息も切れ切れだ。

「はあはあ…ここまでくれば安心だね」
「そう、だね…。他の皆は大丈夫かな…、きっと今ので騒ぎになる気がする」
「そ、そっか…どうしよう…!」
「ちょお、待ちぃや。自分ら、誰?」
「!!」

いきなり聞こえた第三者の声に、私とルカはビクりと肩を震わせる。
見ると、下水道の奥から女の子が歩いてきた。

「役人やないみたいやけど…。なんでこの場所知っとんよ?」
「君こそ誰?ここで何してるの?」
「何って、ウチここに住んでんねんで?まあ、勝手に住み着いとんねんけどね」
「ここって…下水道に?」
「まあ、そういうワケや。まあ、役人やないんやったら誰が来ようと構へんねんけどね」

するとマンホールが開く音がして、誰かが梯子を伝ってきた。…アンジュ姉さんとイリアだった。

「あ、名前にルカ君。何だか騒ぎになってるみたいだけど」
「……」
「あ…のね、アンジュ姉さん。それは…」
「ちょっとルカ!兵士がうろついてんじゃない!あんた、ひょっとして実家に顔出したんじゃないでしょうね!!」
「どうしたの、イリア。そんな大声で」
「アンジュは黙ってて!…ルカ、あんたの行動がみんなの迷惑になってんのよ!どう始末つけてくれんの?」
「ごめん…」
「ごめん、じゃないでしょ!そんな事じゃあねえっ!」
「イリア…ルカは悪くないよ。住宅街を歩いていた時に運悪く兵士たちが歩いてきてたの。それにルカのお陰で助かったようなものなの。…あの時、ルカの友達が助けてくれなければ、私たち3人は牢屋行きだった」
「名前の言う通りだ、しかし。ルカは悪くないと思うぞ」
「ほら、二人もこう言ってるじゃない」
「謝って済むと思ってんの?バカバカ!もおっ、ほんっとバカ!」

なんだか、イリアは行き場の無い怒りをルカにぶつけているだけのように見える。…何か、あったのかな?
私はアンジュ姉さんは顔を合わせて首を傾げる。…ということは、情報収集中に何かあったわけでもないのか…。

「あーあー。もう〜、自分声大きいなあ…。ホンマ、耳キーンってなっとるわあ」
「…誰、あんた」
「自分こそ誰やっちゅ〜ねん。まあエエわあ、兵士に追われとんやったら、ちょっとココおりい」
「でも、迷惑じゃ…」
「気にせんでエエよ。ほな、ちょっと奥おいで」

女の子に案内され、少し生活感のある場所まで案内された。生活感…といっても、藁が積んであったり焚き火の跡があったり…というものだけだったけど。
ルカが女の子に今までどのようなことがあったかを説明すると、女の子は親身になって聞いてくれた。

「ここは…どういうところなの?」
「ああ、ココは…孤児院みたいなトコかな」
「ふうん…。聖職に就く身としては、少し納得出来ない状況ね。…本当に孤児院なの?」
「けどなあ、しゃあないやん?戦争やなんやかやで、施設が一杯やもん。子供で溢れかえって食糧不足やねん。せやから毎日のように奪い合いの大ゲンカしよんねんで。ウチらみたいなコは、ああいうトコではまともにメシ喰われへん。ヘタしたら死んでまうわあ」
「じゃあ、あんた何やって食べてんの?」
「そりゃあ、よう言われへんわあ。だって、怒りよるやろ?ウチ、怖い人苦手やねん」
「悪いことをしてるのね。駄目なのよ?」
「そんなんわかってんねん。でも、生きていくためにはしゃーないやろ?だってな、ウチらみたいな子供はまともな方法で金稼げへんもん」

私も…アンジュ姉さんが拾ってくれなかったら、孤児院に入れられてたのかな。それとも、この子の言う通り入れなくてお腹を空かせて…それ、で…
ゾッとした。私は強くないから、この子のように生きることは出来ない。…本当に、アンジュ姉さんと出会えてよかった。

「だからってこんな暮らしはないでしょ?不衛生な場所にいたら病気になっちゃう!病院に行くお金ないでしょうに」
「ねーちゃん、それキッツいわ〜。ウチらかって、ここが気に入って住んでんやないねんで?ここで隠れ住む以外にどないして生きていったらエエんかわからへんねんもん」

すると、イリアが足を踏み鳴らした。…やっぱりイリアの様子がおかしい。もしかして、前世のせい…なのかな。

「そんなん、怒らんといてえやあ…、ウチ悲しい…」
「イリア、変よ。カリカリしすぎ」
「わ、悪かったってば!ちょっとまた頭痛がしてて…」

前世の…イナンナに何かしらの影響を受けて、頭痛がする。イライラする。…ありえないことでは、ない。

「イリア、薬あるけど飲む?」
「いや、いいわ。大丈夫、もう収まった」
「そう…それなら、いいけど」
「うおっ!オレの隠れ家がこんなになってる!」

するとスパーダとリカルドさんが下水道にやってきた。…良かった、無事だったんだ。

「なんや、自分やったんか。ここ、場所作ってくれたん。ありがたく使わせてもろてるで」
「誰だよ、このちっちゃい子は?」
「あんたはうすらでかいなあ。ウチはエルマーナいうねん。さっきこのルカ言う人に話は聞いた。あんたら、取引せえへん?」
「…取引相手として信用置けんな。だが、一応話は聞こう」
「あのな、ウチら情報収集はお手のもんやねん。必要な情報、拾といてあげるわ」
「その代わり?」
「自分話早いなあ。…鍾乳洞の奥に金目のモンがあるっちゅう話やねん。それ、取って来てもらえへん?」

エルマーナがニヤリと笑った。
あまりにも歳相応ではないその笑み…。それが私は少しだけ怖かった。

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