「さあて、それじゃ転生者を探しに行こうよ」
「でもさあ、適応法で捕まっている人は町にいないんじゃないの?」
「隠れている人が絶対にいるはずよ」
「どうやっていぶり出すつもりだ?」
「第一、会ってくれるの?」
「うぐぐ…、そ、その解決を含めての情報収集でしょ?さ、とにかく行きましょうよ」
「行こうって、何処へだよ?」
「何処か、よ!」
「あ、イリア…!」
レグヌムに着いた私たち。転生者を探すことになったんだけど…
イリアって考えているようであんまり考えていないよね。なんとかなるって思うのは大事な事かも知れないけど…下手に動いてしまったら捕まってしまうこの状況で、何も考えずに動くのは得策ではない。
「…まあ、突っ立っているわけにもいかんな。とにかく町を歩いてみよう」
リカルドさんの提案に頷き、レグヌムの住宅街を抜けた時だった。
「オイ、隠れろっ!」
最後尾を歩いていた私は、スパーダに腕を引っ張られて建物の影へ。
「え、え…何?」
「静かにしろ!レグヌム兵だ」
「…!」
建物の影から先ほどまで居た通りを見てみると、銃を持ったレグヌム兵二人が徘徊していた。
彼らはすぐに先へと行ってしまったが、私はまだ心を落ち着かせることが出来なかった。
…入ってすぐに兵士と出会ってしまうなんて…、本当にここで転生者を探すことは出来るの?逃げるのでも精一杯なのに、本当に大丈夫…なの?
「おい、名前?どうかしたのか?」
「…っ!」
スパーダの声で我に返ると同時に、驚いてしまった。か、顔近っ!それに、かなり密着してるし…!
顔に熱が広がっていくのが分かった。ずっと、こんな距離にいたの?…は、恥ずかしいっ!
私が顔を真っ赤にしているのに気づいたのか、スパーダはニヤりと笑って更に顔を近づけてくる。な、何!?
「顔真っ赤だぜ?」
「ち、違う…!」
「へー…真面目で堅物な奴って思ってたけど…、中々可愛いトコもあんじゃねーか」
「え…?」
――真面目だと思っていたが、…可愛らしいな。お前は――
出会って間もない頃に言われた、この言葉。
思い出したのは私だけではないようで、スパーダも先ほどまでのニヤニヤした表情は驚きに変わっていた。
「ス、パーダ」
「名前…、俺…」
「ちょっとソコの馬鹿ップル!兵士もいないしさっさと行くわよっ!」
「…っ、あ、私、姉さんに話したいことが、あるから…行くね!」
「あ、ああ…」
私は逃げるようにその場を走り去った。
何であのタイミングで…!しかも、同時に思い出しちゃうのよっ!…は、恥ずかしい…!しかも、同じ台詞を言われるなんて…。少しだけ、嬉しかった。
チラりとスパーダを振り返ると、彼は何事も無かったかのようにルカと話していた。
すると一気に高まっていた気持ちが萎えてしまう。…こんな事で一喜一憂しているのは、私だけだった。…やっぱり、スパーダには何とも思われていないのかな?
…あれ、そもそも私はスパーダのことが好きなの?いや、それはない。だって旅をはじめてから、彼とはあまり話した覚えが無いし。
…また、前世の記憶と現世の記憶が混合しているのかな。…面倒くさいな、これじゃあどちらが自分の本当の気持ちか分からなくなるかもしれないよ。
「名前、どうしたの?気難しい顔して」
「アンジュ姉さん…」
「また何か気になることでもあったの?」
「…姉さんは、前世の気持ちと現世の気持ち…めちゃくちゃになってない?」
「前世の気持ち?…オリフィエルの気持ちってこと?」
「うん…」
「…うーん、今のところは記憶を思い出すだけよ。もしかして、グングニルの気持ちが自分の気持ちと混ざってるの?」
「…分からない。分からないの…」
「ごめんなさい、そればかりはどうすることも出来ないわ。…だけど、一人で考えすぎちゃ駄目よ?私やみんながいるんだから、何かあったらいつでも相談しなさい?」
「…ありがとう」
だけど、まだ自分で整理が出来ていないから…他の人に相談することもできない。
…グングニル…あなたは、私は…何がしたいのかな。