全てが崩れ去っていくような、そんな感覚。気分が悪くて、頭が痛くて、心も痛くて…
崩れていくの、全てが
私は最も大切だった人を見る。だけどその人は最期まで、私を見ようとしなかった。
叫んだけど、聞こえない。伝わらない。
大切だったその人、私には分からない分からない分からない…



「っ…は、…ゆ、夢…?」

シーツを握り締め、つうっと伝わってきた汗を拭う。嫌な夢だった。内容は理解できないけど、でも…心地の悪い夢。
真っ暗で、冷たくて悲しくて、苦しくて…
これも…前世の記憶なのだろうか。

ああ、いやだ。完璧に目が覚めてしまった。
何か…飲みたい。そういえばハルトマンさんが、下に水を用意していると言っていた。飲ませてもらおう…
私は隣で寝ているアンジュ姉さんやイリアを起こさないように気をつけて、部屋を出た。



水をガラスのコップに入れ、それを一気に飲み干すと、幾分か気分は落ち着いた。
椅子に座らせてもらい、少しだけ休ませてもらうことにする。
すると階段が軋む音がした。…誰か起きたのかな?

「誰かと思えば、セレーナ妹か」
「あ…リカルドさん。眠れないんですか?」
「少し喉が渇いてな」
「…そうですか」

リカルドさんはキッチンへ向かって行った。水を注ぐ音が聞こえ、それからまたリビンぐへ戻ってきた。
私の向居側の椅子に座ったリカルドさんは、私に視線を向ける。

「…セレーナとお前は、姉妹なのに似ていないな」
「アンジュ姉さんとは本当の姉妹じゃないんです」
「…そうか」
「はい。…私、5年前に起こった抗争で家族を亡くしたんです。それからナーオスの教団の人に助けられて…そのまま流れでアンジュ姉さんに育ててもらったんです」
「兄弟は、いたのか?」
「兄が一人。でも兄は…亡くなったかどうか分からなくて…」
「…どういう事だ?」

…話は5年前のあの日に遡る。



「名前、兄ちゃんが良いって言うまで隠れてろよ」
「嫌だあ!お兄ちゃんまで、行かないで!置いていかないでよっ!」

私が兄に縋り付くと、兄は困ったように笑う。いつもは陽気な兄。だけど今は別人のようで、少しだけ怖かった。
爆音が鳴り響く中、兄は小さな小屋のすみに私を連れて行き、毛布を1枚、少しのパンやお水を渡してくれる。そして持っていた槍を地面に置いて、兄は私をきつく抱きしめた。

「兄ちゃんは大丈夫だから。な?絶対に迎えに行く。だから、待ってろ」
「お兄ちゃん…!」
「大切な村を守らなくちゃいけないからな。…じゃあ大人しくしてろよ?」
「うんっ!」
「よし、良い子だ。じゃあ行ってくるな!」
「いってらっしゃい!」

それから何日か経ったけど、兄が帰ってくることは無かった。あれだけ聞こえていた爆音が聞こえなくなったのは、それから一日後。
さすがに心配になり、私は兄の言いつけを破り外に出た。…すると広がっていたのは無。
言葉が出なくなり、そして涙が出た。そんな状態の私に声をかけてくれたのが、アンジュ姉さんだった。


「…そうか」
「あ、あはは…急にこんな話をしてしまってすみませんでした」
「いや…気にするな。…セレーナ妹、お前の兄は…見つかっていないのだな?」
「え…ええ、そうですけど…」
「…そう、か」

いきなりそんなことを聞いてくるリカルドさんのことを、不思議に思って見る。すると彼も私の顔をじっと見つめていた。

「ど、どうかしましたか?」
「…いや、俺の気のせい、かもしれないからな」
「気のせい?」
「…気にするな。じろじろと見てしまって悪かったな。…さて、明日は長距離を歩く。お子様はさっさと寝ることだ」
「お、お子様じゃありません!」
「フッ…じゃあな」
「…うー、おやすみなさい…」

なんだかはぐらかされた気もするけど…まあいいや。
私はリビングにリカルドさんを残して、階段を上がっていった。

「…まさか、な…」

後ろでリカルドさんがそう呟いているとは知らずに。

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