アイツは港の縁に座って空を眺めていた。オレは声をかけようとしたが、彼女の姿を見て少し考えた。
名前はグングニルだった。オレの前世での恋人の転生者が、名前だった。
こういっては何だが、少し複雑だった。前世での恋人って…なんつーか今のオレにはどう対処すればいいのかわかんなかったし、普通にしておけばいいんだろうけど、でもやっぱり気になるし…。それがこいつに会った時からずっと抱いていた感情。守らないといけないと思う。大切にしてあげたいと思う。だけど、それはデュランダルの気持ちだと思う。そうしたら、こいつを迎えに行くのはオレがするべきことなのか?咄嗟に自分が行くと言ったが、よく考えたら自分は名前と出会って間もないし、…だけど。

彼女の横顔を見る。…やはり、守りたいと思う。
前世ではお互いに触れることはできない、だけど感じることはできた。オレたちの魂が共鳴し合って、いつも鳴り響いていた。
だけど、今度は彼女に…グングニルに触れることが…

「(っ、なんだ。何考えてるんだよ、オレ)」

あくまで、前世の話だ。きっと名前だってそう思っている。だって、「オレたち」は会って間もない。恋などに発展するわけがないのだ。なのに、どうしてこんなに求めてしまうんだ。
…もう止めだ止め!
考えを振り払うかのように首を横に何度も振り、彼女に近づく。

「おい、名前」
「!…スパーダ」

彼女は驚いたように目を見開くと、複雑そうに目を下に向ける。そしてまたオレに目を向けた。

「ごめんね。アンジュ姉さんたち心配してるよね」
「あぁ、まぁな」
「…もう大丈夫だから。ごめんなさい、ハルトマンさんだっけ?…家まで案内してくれる?」

彼女は普通に振舞っていた。笑顔でオレに接してくる。
何があったのか聞くべきなのだろうか、それとも聞かぬべきなのだろうか。
オレにはわからなかった。他人のオレが、聞いていい話なのだろうか。
彼女はオレがデュランダルだったら、話してくれるのだろうか。こんなに余所余所しい態度をとられないのだろうか。

「(っ、なんだよ)」

前世のこと気にしまくってるじゃねぇか、オレ。
オレはオレなのに。…名前がオレの前に現れてから、色々と考えるようになってしまった。…それほどまでに、前世のオレ。…デュランダルにとって、こいつが大きな存在だったのだ、と改めて思う。

「スパーダ、どうしたの?」
「…いや、何でもねぇよ」
「…そう」
「行くぞ」

一瞬、名前の表情がまた曇った気がした。
その理由を聞くこともできずに、オレたちは無言でハルトマンの家まで向かった。




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