「そういえば、アンジュってこの町の有名人だよね?歩いてて大丈夫?」
「う〜ん、そうね…。良くないかも」
「じゃあさっさとハルトマンの所でかくまってもらおうぜ」
「……」

ナーオスに戻ってきた私たち。私は許せなかった。アンジュ姉さんを蔑ろにしたこの街の人々を私は絶対に許さない。私にとって一番大事なのは、アンジュ姉さんだから。
私たちがナーオスの街を歩くと聞こえてくる囁き声。アンジュ姉さんは気にせず歩いていたが、私は気になって仕方がなかった。

「化け物が戻ってくるとはな!」
「ほんと、気味が悪いわぁ。よく戻ってこれたわね」

「なんだよ、あいつら。気に食わねぇな」
「無視しましょう」
「アンジュはそれでいいの?」
「こればかりは…どうしようもないもの」

「名前もいるから、あの子が脱走の手助けをしたのね」
「あの子はほら、事情が事情だから学が無いもの。仕方がないわ」
「まぁあのアンジュが育てたのだから、仕方ないか」

私が戦争孤児で学校にも通わせてもらっていないことを言っているのだろう。だけど、私はアンジュ姉さんにたくさんのことを教えてもらった。それに、アンジュ姉さんは私が社会に出ても恥ずかしくないように育ててくれた。自分とさほど年も変わらない私をしっかりと育ててくれた。何も知らないのに、いい加減なこと言いやがって。いい加減なことを、何も知らないくせに!…やる。…してやる。

一瞬だけ目の前が真っ白になり、その直後、突然ものすごい風が辺りに吹き荒れた。目を開けるとナオース自慢の石畳が次々と剥がれていた。街の人々は悲鳴をあげてうずくまっている。
私の手は無意識に動き、街の人たちに向けられる。緑色の魔方陣が足元に現れ、天術のフレーズを唱える。

「っ、お前何やってんだよ!」
「…っ!」

スパーダに肩を掴まれると、突然意識がハッキリした。そして周りを見回す。
街の人たちは逃げ去っていき、残されたのは私たちとボロボロに崩れた石畳だけだった。

「あ、れ…。私…」
「名前、あなた…」
「私が、やった…の?…嘘でしょ、嘘…」

頭に血が上って真っ白になって、それで…気がついたらこんなになってて、それで…私、私…が?
無意識にこんなことをやってしまった、ということなのか?
すると急に頭が冷めた。ここは私の第二の故郷のような場所だった。たくさんの思い出がある。私が育ったこの街。街の人たちに優しくしてもらっていた。感謝だってしている。なのに、さっき私は何て事を考えたんだ。街の人を、こ…殺してやるだんて、最低なことを思ってしまった。その思いの結果が、この崩れたナーオスの街。すると急に自分が恐ろしくなった。
恐る恐るみんなの方を見ると、みんな驚いた様子で私の方を見ていた。怖い、怖い…わけが分からない!

私はこの場にいることに耐えられなくなり、走って逃げた。どこへだっていい。ただ、一人になりたかった。
後ろでアンジュ姉さんの呼ぶ声が聞こえたけど、私はとにかく走った。



「ど、どうするの?名前行っちゃったよ?」
「私が追いかけるわ!」
「待ってよアンジュ、あんたがうろつくのはまずいんじゃないの?」
「でも、名前は元はと言えば私のことを思ってこんなこと…私が追いかけないと!」
「…アイツは無意識にやったみたいだが」

リカルドの発言に、全員がハッとする。確かに彼女が力を使った後「私がやったの?」と驚いていた。

「…とにかく、今は名前を探さないと…私…私」
「俺が探してくる。先にハルトマンのところへ行ってくれ」
「あ、スパーダ!」

スパーダが名前の行った方向へ向かって走っていく。
慌ててアンジュもそれに続こうとするが、イリアがそれを制す。

「ここはスパーダに任せましょ」
「…でも」
「大丈夫よスパーダに任せておけば…。…根拠はないけど」
「ないんだ…。…でも、僕もそんな気がするんだ。スパーダ…なら」


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