「あんだぁ?てめぇ…」

スパーダが双剣を向けた相手は、異質な雰囲気の男性だった。
彼は私たちが転生者だと知っていた。そしてそんな私たちを蔑んだ眼で睨みつけた。


あの後、アンジュ姉さんの交渉でリカルドさん(前世では死神・ヒュプノスだったらしい)を仲間にした私たちは出口に向かうために通路を走っていた。
だが、突然目の前に現れたこの男に行く手を阻まれたのだ。

「転生者ども、この混乱に乗じてコソコソ逃げおおせるつもりか?天上を滅ぼした下衆らしいわ…」

下衆、と言われたのにカチンときたがそれより気になることがあった。
天上を…滅ぼした?天上って、私たちが住んでいたあの天上だよね。…え、天上って滅びたんだっけ…?でも、何で…。こいつの話が正しいのなら、転生者が天上を滅ぼしたの?

「不愉快な挨拶じゃない!一体何の用?あんたもアンジュ目当て?」
「わたし、モテモテね」
「姉さん…のん気だね」
「はっ!一人では無い!全員に用がある。地上のために死んでもらいたいのだ。…我が名はガードル。地上を守りし者」

地上のために死んでもらいたいってどういうこと…?私たちが死んだら地上はなにか恩恵を受けるってわけ?
いやいやいや、なんでそうなるんだよ。なんか腹たつな。理由をきちんと説明してよね。じゃないと納得できないし。

「こいつ…、只者ではないな…」
「地上のため…って、どういう事よっ!」
「己の胸に聞いてみよ。地上の敵め」
「来る!「ちょっと待ってくださいよ」…って、はぁ?」

スパーダがガクリと項垂れる。それはそうだろう、みんなの前に私が立っていて、しかもガードルに近づかないように右手で制しているのだから。
ガードルも眉間に皺を寄せて私を見やる。だが怯まず、私は言い放った。

「きちんとこちらが納得できるまで説明してください!」
「なんだと?」
「はぁ?何言ってんのよ、アンタ…」

ガードルを含めたみんなが呆然としている中、アンジュ姉さんだけが溜息をついた。

「はぁ、また始まったわ」
「また始まったって…どういうこと?」
「うん…まぁ一言で言うと、あの子ね…頭が固いの。だから理由をきちんと把握していないと腹が立って腹が立って仕方がないという状況に陥っちゃうのよ」
「今はそんなことを言っている場合ではないだろう」
「そうなんだけどね、あんなになったあの子はそう簡単に止められないのよ」
「め、面倒くせぇ」

みんなが後ろで何かこそこそと言っていたが、そんなのどうでもいい。
今は知りたいのだ。何故ガードルがそんな事を言うのかを。

「ふっ、はっはっはっはっ!では教えてやろう、小娘。貴様ら転生者は神への恩恵を忘れて闇雲にその力を振るう。だから貴様ら転生者が憎いのだ!」

…?どういうことだ?こいつは、転生者が憎い。うん、オーケー。そして私たちが憎い理由は、神様への恩恵を忘れて天術などを闇雲に使うから。
でもそれと地上のためにってどういうこと?転生者がいると、地上は困る?うーん…せっかく答えてくれたのに、分からないな。あ、でも一つ聞き捨てならないワードがあったぞ。

「ガードルさん、私は神様への恩恵を忘れたことはありませんよ!アンジュ姉さんと一緒に毎朝聖堂で神に祈りをささげて、質素なものを口にし、最低限の装飾品しか身につけず、我が身を神に捧げるつもりで毎日生きています!」
「名前…、突っ込むところはそこじゃないと思うわ…」
「ふははははっ!面白い、娘…名は何と申す」
「名前です」
「真面目に答えるのかよ!あー、もうなんか頭痛い」
「はっ、叩き潰してやろうと思ったがその気が失せたわ。だが次にあった時は容赦はしない…いいな?」

ガードルはそういうと、私を見てフッと笑った後、私のさらに後ろにいるみんなを見回す。するとある一点で視線と止めた。
誰を見ていたんだろうと思い、後ろに視線を向けたと同時にルカの声が響く。

「き、消えた…」

慌てて視線を戻すと、さっきまでそこにいたガードルの姿がなかった。
まだ聞きたいことがあったのになーなんて愚痴っていると、イリアが笑顔で私の目の前に来る。

「ま、ちょっと面倒くさかったけど、アンタのお陰で無駄な戦いをしなくて良かったわ!ありがとね、名前!」
「え…あ、うん」
「嬉しくなさそうだね」
「うん…まあ」
「名前は知りたいことを理解できなかったら心がモヤモヤして晴れないから、暫くはこの状態よ」
「暫くって、どのくらい?」
「そうね…一日はこの状態ね」
「ははは…」

ルカから乾いた笑いが零れた。でも仕方無いと思うんだよなぁ…。理解できないと腹が立つし。
しかも今回は、ガードルに再び会わないと理解することができない。…あぁ、なんか憂鬱だなぁ…。

「おい、リカルド。どうしたよ」
「…いや、何でもない」

リカルドさんとスパーダのやり取りに、みんなはそちらへ一斉に目を向ける。
リカルドさんの顔を見ると、汗が頬を伝っていた。…なんだか、汗かかなそうな人なのにな。汗かくんだ。…なんて見当違いなことを思いながら事の成り行きを見守る。

「どうかしたの?顔色が悪いよ?」
「いや、本当に何でもないさ。早くここから脱出しよう」

リカルドさんはそう言って一人、先へ進んでいった。
ルカは慌ててそれに着いて行きながら、必死にリカルドに問いかけていた。

「本人が大丈夫だって言ってんだからさ。…追求しすぎるのもどうかと思うよね」
「いや、名前はそれを言ったらいけないと思うわ」

あ、そういえば


「ねぇ、姉さん。あの首飾りさ…、どこかの王族から頂いたプラチナ製のやつじゃなかった?」
「えぇそうよ」
「そんな高価なモン、ポンと渡しても大丈夫なのかよ」
「うーん…、金銭的価値で解決するなら、それを惜しむ事はないと思うの」
「ふーん、まぁそうだよね。いつかまたなんか拝領してくれるよね」
「そうね」

私たち姉妹が頷きあったのと同時に、ルカの私たちを呼ぶ声が聞こえた。
仕方ないから雑談を止めて私たちは出口に向かって走り始めた。アンジュ姉さんの「えー、走るの?」とか言う声を無視して、走り始めたのだった。






「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -