私とアスベルは違いすぎる。
立場も違えば背負っているものも違う。…昔は違いを感じるなんてことは無かった。でも年を重ねていくにつれ、だんだん離れていった。私とアスベルの全てが。

「アスベル」

と知らない誰かが呼ぶ度に、私の心は締め付けられる。

あなたはアスベルの何を知っているの?私の知らないアスベルが、確かにその人にはあって。
私の心は醜い嫉妬という感情で真っ黒に塗りつぶされる。
私がこんなことを考えている間も、彼はこの世界のどこかで私と違う誰かと一緒にいるんだ。

カランカランと、ドアベルが鳴る。誰か来たようだ。
…誰だろうが、関係ないが。





久しぶりに故郷に帰ってきた俺は、まっさきに彼女に会いに行く。
一緒にいた頃の彼女を思い出す。変わっていないだろうか、元気だろうか…。

名前に会うのが、ただただ楽しみで仕方なかった。
昔のように、笑い合えるだろうか。…もちろんそれも大切なのだが、俺は昔の関係のままでは満足はできないだろう。
彼女のことが気になり始めたのはいつからだったっけ…。

そんなことを考えながら、俺は彼女の家のドアベルを鳴らした。






まさかの来客に驚き、私は目を見開いた。半開きだったドアを急いで開け、私は彼を凝視する。

『アスベル…?』
「あぁ、俺だ。名前」
『…!』

とりあえず彼を家の中に入れ、ドアを閉めた。アスベルは私に向き直り、にっこりと微笑む。


「一人なのか?」
『うん…まぁ』
「そうか…」
『………』


正直私はこの状況に焦っていた。突然家に訪れたアスベル…。一体なんだというのだ。
私はとりあえずアスベルに水の入ったコップを差し出し、椅子へ座るよう促した。


『か、帰ってきたんだね』
「あぁ…。最近バタバタしていたからな。…名前は、怪我とかしなかったか?」
『うん。アスベルたちのお陰だよ』
「あの時はまともに挨拶できなくてすまなかった。…少し、急いでて…」


あの時、というのはリチャード殿下の一件のことである。あの時は私もただただ怖くて、街の人が戦っているのをただ見ているしかできなかった。
アスベルやヒューバートやシェリアたち…私の幼馴染は必死で戦っているのに、私は何も出来なかった。
彼のまわりには他に私の知らない人たちもいて…私は…。

…よそう。こんな考え方はみっともない。


『ううん、いいよ。こうやって来てくれただけでも嬉しいから』

そう言って、私は微笑んだ。






彼女の笑顔に違和感を感じた。
昔の彼女はこんな笑い方はしなかった。…もっと心から笑っていて、それで…

そこで俺は気づく。
…7年にもなるのだ。彼女と離れていた時間は。
名前も変わっていて当然なのに…。でも、俺はそれを認めたくなかった。


「名前…何かあったのか?」


そう聞くことによって、その疑念を取り払う。きっと、何かがあっただけなのだ。

『別に…何もないよ』
「無理はしないでくれよ?俺は、名前が悲しんでいる所なんて…見たくない」
『…何も、ないから…』


そう言って俯く彼女の瞳から、涙が流れ落ちた。





残酷だ、そう思った。
アスベルの優しさが、私を苦しめる。正直、もう放っておいてほしかった。
彼自身にそんなつもりはないのだろうが、彼が好きな私にとっては、全てが残酷に聞こえる。

彼を取り巻く全ての人が嫌になってくる。…だって、私の知らないアスベルを知っているから。
…これはただの嫉妬だ。醜い、自分が嫌になってくる。
そんな醜い私に、アスベルは優しく声を掛けてくれる。…それがたまらなく嬉しくて、そして、たまらなく嫌だった。


「名前…泣いているのか…?」

ほら、心配かけてしまったではないか。
私は彼に大丈夫、と謝って涙を袖で拭ったその瞬間、アスベルに抱きしめられた。


『ア、アスベル…』
「心配なんだ。あの時も、すぐにでも名前の傍に駆け寄りたかった…。俺がすぐ近くで守っていたかった…」
『私…アスベルに守ってもらうような人間じゃないよ…。あの時もずっとアスベルの仲間たちにやきもち妬いてて、傍に居れないのが悔しかった…』
「名前…」
『ずっとアスベルのことが好きだった…その気持ちは確かだった。…でも、こんな奴に優しくしないで』


そういうと、アスベルは「馬鹿」と呟いた。


「そんなことない。名前は『こんな奴』なんかじゃない」
『……』
「名前、俺もずっと昔からお前が好きだったんだ。長い間会えなかったときも、この気持ちは変わることがなかった。お前との空白だった時間を埋めたくて今日ここへ来たんだ」
『でも、私はアスベルに何も出来ない。立場だって背負っているものだって違うの…あの時だって、何もできなかったし…』
「そんなの関係ない。俺は旅路の中で苦しくなったとき、いつも名前を思い出していた。…頑張らなくては、といつも元気をもらっていた」
『アスベル…』
「名前これからの時間を俺のためにくれないか?7年間…会えなかった分…いや、それ以上の時を名前と過ごしたいんだ。平和になった、この世界で」

アスベルの言葉にコクリと頷くと、彼の私を抱きしめる腕の力はより強いものになった。



空白だった時間は、私と彼の障害となった。色々な事を考えれば考えるほど嫌な方向に考えは進み、先に見えるのは絶望ばかり。
でも、これから二人でその障害を埋めよう。…そしたら、きっと昔以上にかけがえのないものに変わるから…



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