私は香りつきのリップグロスを集めるのが趣味だ。
バロニアの雑貨屋さんに行っては、新色を買って塗って…可愛い香りや可愛い入れ物が、乙女心をくすぐるのだ。

今日も今日とて新作グロスを買占め自宅に戻る。
これまた可愛らしいチェリーピンクの袋からグロスを取り出し、棚の上に並べる。
可愛いなあ、可愛いなあ…。…しばらく眺めてから、その内の一つを手に取った。


苺のにおいがするグロス、鏡を見ながらそれを唇の上にのせていく。
あまり色がつかないタイプなのか、唇の上にのせても色が変わらない。だけど、つやつやになった。くんっとにおいを嗅ぐと、甘い苺のかおり。
唇を使って馴染ませると、その香りはよりいっそう広がり、とても気分がいい。


すると玄関のチャイムが鳴る。
今日はリチャードがお忍びで遊びに来てくれる日だ。私は急いで玄関に向かい、戸を開けた。


「やあ、名前」
「リチャード、いらっしゃい!」

彼を家の中に招きいれ、私はそのままキッチンへ向かう。朝に焼いて、今まで冷ましておいたクッキーと紅茶のセットを取りに行き、すぐにリチャードを案内した客間へと通す。
紅茶を淹れてリチャードに差し出すと、彼はいただきます、と言ってクッキーに手を伸ばした。一口齧って、にこにこと笑顔になるリチャードに胸が跳ねる。


「美味しいね、…これも手作りかい?」
「う、うん」
「へえ…、この前のシフォンケーキといい…君は本当にお菓子作りが上手いんだね。とても美味しいよ」
「ありがと、リチャード」
「ほら、名前もそんな所に立っていないで座りなよ。一緒に食べよう」
「うん!」


私はリチャードの反対側に腰掛ける。すると、私の分の紅茶をリチャードが淹れてくれた。
お茶会のはじまりだ。だけど私はそわそわ、落ち着かない。…ある事を待っているんだ。そのある事とは…

リチャードがティーカップをテーブルに置き、クスっと笑う。それと同時に私の頬は朱に染まった。
彼は反対側に座る私のほうまで歩いてきて、そっと私の頬に手を置く。


「また、かい?」
「…っ」
「自分からして欲しいって言えば良いのに」
「だ、だって…」
「はいはい、分かったよ…お姫様」


リチャードはそう言うと、自分の顔を私の近くまで近づけて、くんっとにおいを嗅いだ。
綺麗なリチャードの顔が目の前にある。…いつまで経っても慣れない、ドキドキする。でも当たり前でしょ?好きな人の顔がこんなに近くにあるんだから。


「苺のにおい、かな?」
「あ、当たり…」
「ふうん…」

リチャードは一瞬何かを考えてから、私の耳に唇を寄せる。彼の吐息がかかって、少しだけくすぐったい。

「…苺の匂いなんかつけて。…名前はもしかして、食べてもらいたいのかな?」
「っ!!ち、違っ…!」
「フフッ、可愛い」
「んっ…」


唇全体を彼の唇で包まれる。ふにふにと感触を味わい、何度か重ね合わされ、そしてちゅっと音を立てて離れるリチャードの唇。ふわりと、苺のにおいが辺りに漂った。



私はリップグロスを集めるのが趣味だ。
バロニアの雑貨屋さんに行っては、新色を買って塗って…可愛い香りや可愛い入れ物が、乙女心をくすぐるのだ。そして何より…

グロスを塗っていたら…リチャードが、こうしてキスをしてくれるんだ。甘い言葉もくれるんだよ。



以前、リチャードとこうして二人で会ったときに、チェリーの香りのグロスをたまたま塗っていて。
「いい匂い」という声と共に彼の唇が私の塗っていたグロスを浚っていったの。何だか、普通にキスするよりもドキドキして。それに、キスをした後にリチャードも私と同じ香りに包まれるのが、たまらないんだ。

だから、私はグロスを塗るの。その意図はリチャードにバレてるけど、彼も何も言わない。先ほど、「自分からして欲しいって言えば良いのに」と言われたが、何故だか照れくさくて、自分から求めることは出来ない。
だから私はいつも紅茶を用意するの。紅茶に手をつけずに、待つの。そうしたら、リチャードはいつも察してくれて私のところへやってきて、甘いキスをくれるんだ。

それが嬉しくて、ついつい私はわざとらしい態度をとってしまうんだ。



唇が離れた後、リチャードは自分の唇を舐めて、クスリと笑う。

「…甘いな」
「だ、だって…苺だもん」
「苺も甘いけど、名前の唇も相当な甘さだよ?」
「…!も、もう!リチャード!」
「名前」


もう一度低くて甘い声が、私の耳元を刺激する。
真っ赤になって何も言えなくなった私を、リチャードはくすくす笑いながら抱きしめた。




苺キス



森さんへ相互記念



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