「お久しぶりですマリクさん」
「…名前、か?」
「ええ。隣、いいですか?」
「…ああ」


やっと、会えた

あの旅からちょうど10年…。私は28歳になった。あの時よりスッキリとした顔のライン、細く括れた腰に豊満な胸…どこからどう見ても、大人の女だった。

最後に会ったあの日よりも成長した私。…この人に少しでも女として見てもらう為に、磨いてきた自分自身。やっと、やっと彼に見てもらえるのだ。


「…それにしても、なんだ。随分と雰囲気が変わったな」
「いやだなあマリクさん、10年も経ったんですよ?変わるに決まってるじゃないですか」
「そうか、もうそんなに経ったんだな」
「…ええ。もうこんなに経ったんです」


近くにあったバーに入り、カクテルを注文する。マリクさんも自分の飲み物を注文した。

あの頃は未成年でお酒も飲めなかった、彼が飲んでいる味を知らなかった。…私は子供だった、だけど今は違う。

成人してから、彼の飲んでいたお酒は全て飲んでみた。最初は苦くて吐き気がしたけど、歳をとるにつれて飲むことに幸せを感じるようになった。ああ、これでまた一つ…あの人と並ぶことが出来た…と夜のバーで一人、喜んだのも今ではいい思い出。


「名前、いくつになった?」
「28です」
「…歳をとったな」
「お互い様じゃないですか」
「…ああ」


ええ、歳をとりました。歳をとることによって大人になれる、と喜んでいる自分はいる。だけど、素直に喜べない自分もいる。
だって、私が一つ歳をとったらマリクさんだって一つ歳をとるの。埋めようの無い年齢差。どう足掻いても、どうにもならない。現実を思い知らされているようで、気持ちが悪い。まるで最初に口にしたお酒の味のようだ。


「女は歳をとると魅力が増すな」
「ふふっ、マリクさんたら上手いこと言って。何も出ませんよ?」


一見口説いているように聞こえるかもしれないけど、これは完全に昔のノリ。
仕方ない。だって私はマリクさんにとっては永遠に年下の女。旅を共にした、ただの子供だから。

可笑しいな。現実は見えているのに、諦めきれないの。だからこうしてあなたに会いに来た。一体何がしたいのかな、私は。いっそのこと、このまま本気の言葉をぶつけてみようかしら。きっと上手くかわされるのだろうけど。


「お前はストラタに住んでいるんだったな。ヒューバートとはよく会うのか?」
「いいえ、ヒューバートも昇進して昔よりも忙しくなりましたからね。最後に会ったのは…もう数年前のことですよ」
「…そうか。フェンデルへは何で来たんだ?」
「マリクさんに会うため…って言ったら?」
「嬉しいことを言ってくれるな」


フッと笑って、ワインを飲み干すマリクさん。それに倣って、私もグラスの中身を飲み干した。ほんのりとした苦さが口の中に残る。


「お前もいい歳なんだから、そろそろ身を固めてもいいんじゃないか?」
「…教官こそ、いいお相手を見つけてさっさと結婚した方がいいんじゃないんですか?」
「やっと『教官』と呼んだな」
「…っ」


わざと変えていた彼の呼び方。気づいていたのか…


「…まあ、50の親父が言う事だから深く考えなくてもいいが…」
「?」
「背伸びをするのも、ほどほどにしておけよ?」

…背伸びなんかじゃない、と言い返したかったけど。だけど私は言い返すことはしなかった。
言い返したら、それこそ子供。だから私はフッと笑って彼にグラスを差し出した。


「教官、お酒作れますよね?…私に一杯作ってくださいよ」


真っ赤な口紅をひいた唇をくいっと上げて、私は挑発的に微笑んだ。
どうやっても差は埋まらないけど、だけど少しだけは大人になった子供の私を見て…

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