机の上に並べられた眼鏡たち。どれもなんだか見覚えがある。
そんな眼鏡たちの前に立ったままなにかを考えているヒューバートの近くに寄ってみた。


『ヒューバート、何してるの?』
「あぁ、名前ですか。いや、ただ眼鏡を売ろうかと考えているんですよ」
『えぇー!?売っちゃうの?』
「まぁこんなにあっても不要ですし…」


そういえばなんか私以外の皆は集めているものがある気がする。
教官は香水、パスカルはマフラーにシェリアはリボン。みんな次の土地に行っては新しい物を買っている。
それがヒューバートにとっては眼鏡、なのだろうか。

「どうしたんです?」
『ううん、ただ…皆はコレクションしてるのに、私は何も集めていないなーって』
「これはコレクションというか、装備品というか…。というか生活必需品というか…」
『でもせっかく集めたのに売っちゃうんだね…』


私は机の上に置いてあった中のシンプルなフレームの眼鏡を手に取る。これがヒューバートには一番似合ってたように思う。
今彼がかけているのは学者メガネ。ちょっと狙いすぎな気がする。


『なんで今その眼鏡なの?』
「それは一番装備効果が高いからですよ」
『でも、眼鏡は顔の一部っていうくらい大切なんでしょ?』
「まぁそういいますが、僕的には似合うか似合わないかより効果が高い物を選びますね」

くいっと眼鏡をあげる仕草がとても決まっているヒューバート。
でも私はあれ?と首を傾げる。


『でも、なんで今までこうして効果がないものを取っておいたの?』
「それは…」

ヒューバートは言いにくそうに視線を逸らす。
私は首をかしげながらヒューバートを見つめた。


「愛着が湧いてしまったからです。名前がさっき言った通り、僕にとって眼鏡は顔の一部なんでしょうね」
『じゃあ、なんで売ろうとしちゃうの?』
「先ほど言ったようにこんなにあっても不要だし、荷物にもなるからです」

そういうとヒューバートは机の上の眼鏡を片付け始める。
丁寧に眼鏡ケースに入れられていく眼鏡たち。彼は少し悲しそうな表情だった。


『ヒューバートはなんで眼鏡をかけているの?』
「…なんかその質問ソフィにしょっちゅうされるんですが…まぁ、目が悪いからですよ」
『昔は…かけてなかったよね?』
「…えぇ。向こうに養子に行ったとき、猛勉強しましたからね」
『勉強で視力が落ちたんだね!すごい』
「結構不便ですけどね」

そうだ、と私は思いついた。


『ねぇ、ヒューバート。眼鏡ってデュアライズできないのかなぁ?』
「残念ながら出来ないみたいですよ。宝石との相性が悪いのでしょうね」
『でもさ、かめにんに聞いてみようよ?もしかしたら特定の宝石とデュアライズできるかもだよ?』


そういうと、眼鏡と宝石を持って門のそばにいるかめにんの所まで行った。






『えぇー?できないの…?』
「特定の装備品とはデュアライズできないんっすよ」
『そこをなんとか!』
「できないものはで〜き〜な〜いっす!」
「名前、もういいですよ」


ヒューバートは私の手を引き、道具屋へ向かった。
売るものをおじさんに見せ、引き取ってもらう。その間、ヒューバートの表情は良いものとはいえなかった。


『売っちゃったね』
「えぇ、売ってしまいました」
『なんだか、悲しいね』
「…えぇ、そうですね」

ヒューバートの抱えていた眼鏡のケースは、ガルド袋に変わった。
それをこれからの旅費にあてようとするヒューバートは本当に偉いと思う。


「もう不要だったんです。これでよかったんですよ」
『ヒューバート…』
「今はこの眼鏡だってあります。だから大丈夫ですよ、名前」
『本当にいいの?』
「…えぇ、こうして辛い別れがあってこそ、また新しい出会いもある…人生ってそういうものですよ」
『…ヒューバート、なんか違う気がする』
「そんなこと、別にいいんですよ」


ズレた眼鏡をクイっとあげ、ヒューバートは優しく微笑む。
そんな彼の腕に抱きつき、私たちは宿屋へと帰っていった…。




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