私の隣には当たり前のようにリチャードがいた。彼は笑い、冗談を言い…真面目だとばかり思っていたのだが、案外そうでもないようだ。だってマリクさんと仲いいし。この前だって夜の宿屋のロビーで二人で飲んでいた。きっと二人で変なことでも企んでいたのだろう、目が少しだけ気持ち悪かった。あ、内緒だよこれ。


とにかく、少し前まではリチャードとこうして一緒に旅するなんて思ってなかったし、彼が冗談を言う人だなんて思ってなかった。だけど、それが嫌なわけじゃない。むしろ嬉しいかもしれない。リチャードのことが好きだから、好きな人のことは知りたいって思うでしょ?



「名前、なに考えてたんだい?」
「あ、リチャード。うん、まあちょっとね」
「?なんだい、気になるじゃないか」

リチャードのこと考えてたんだよ…なんて言えないよ。


……、ちょっと待て。
…あれ。私、どこの恋する乙女(はあと)だよ。そういうキャラじゃなかった筈なんだけどなあ…恋って人まで変えてしまうのか…げに恐ろしい。

「どうしたんだい?」
「いや、ここまで思考が乙女チックになるなんて少し気持ち悪いなあと。あ、もちろん乙女チックを否定してるわけじゃないよ、自分を否定してるんだよ」
「?」
「あ、いや気にしないで」
「うーん、でも僕は気になるな」


一人掛けの椅子に座っていた私の後ろに立っていたリチャードはゆっくりとこちらへ近づいてくる。ぎしっという音と共に背もたれにあずけていた私の顔のすぐ横にリチャードの顔が。ひええ近いよ!後ろから覗き込まれているのだ、そりゃあ近いよね、うはあ。

リチャードの美しすぎる顔を、こんな間近で見ることになるなんて思わなかったよ。なんて一人で思っているとなんで百面相しているんだい?と少し笑いながらリチャードが。


「百面相してた?」
「うん、でも大丈夫だよ。全部可愛かったから」
「じょ…冗談はよしてよ、あはは」
「ふふっ、冗談じゃないよ。それで…話の続きなんだけど、いいかな?」
「何の話だっけ」
「僕は気になるって話だよ」

リチャードの顔急接近とか可愛いとかで飛んでたけど、そういえばそんな会話してたよね。


「名前の乙女チックな思考、教えて欲しいな」
「知ってもいい事ないよ」
「そんなことないさ。僕的には今一番知りたい内容かもしれないし」
「…どういうこと?」
「乙女チックな思考って…恋のことだろう?名前の恋事情なんて、僕が今一番知りたい話題だから」
「え、それって…」


私が言葉を発する前にリチャードの唇が私の頬に触れる。段々熱を帯びていく頬。体中の全ての熱がそこに集まってきてるんじゃないの?っていうくらい、熱い。


「え、あ…リチャード…?」
「こういうこと。分かった?僕が知りたい理由」
「…わ、わかった?」
「なんで疑問系なの」
「だ、だって…!」
「ははっ」


リチャードは屈んでいた姿勢を正し、私の前にまわりこむと固まってる私の唇の上に人差し指を置く。


「本当はここにしたかったんだけど、我慢してみた。その気になったらいつでも言ってね」


怪しく笑いながらリチャードは部屋から出て行ってしまった。
情報が入りすぎてごちゃごちゃになった思考回路で、唯一つだけきちんと理解できたことがあった。



おいてけぼりの微熱が恋しい

頭の中は真っ白だけど、頬に触れた感触だけは確かに理解できた



樗杞さんへ相互記念



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