(ピリオド設定)






綺麗な花を宿屋の隅で見つけて、名前に見せてあげようと思った。彼女はお花が好きだから、だからきっと喜んでくれると思った。
でも、摘むのはかわいそうだと思ったからボクは宿屋の部屋にいるであろう彼女を呼びに行った。

名前の部屋の前まで行き、ドアに手をかけた時だった。


「で、そうなったんだよ!」
「そうなんだ」
「面白いだろ?」
「うん、面白いね」


名前とティトレイの楽しそうな声が部屋の中から聞こえてきた。
今日は久しぶりに一人部屋が与えられたから、二人以外に部屋にいない、ティトレイがわざわざ#名前#の部屋に来たってことだよね…。

ボクの頭の中に、「二人きり」という言葉が何度も響き渡る。
それと同時にボクはどうしようもなくティトレイに嫉妬してしまった。



「(なんで、二人きりなの?そんなに楽しそうに、笑って…。ボクのほうが名前のことよく知ってるし、だけど、ボクは…)」

わけのわからない感情がぐるぐると心の中を回る。

ティトレイと名前はお似合いなのだ。歳だって近いし、名前は可愛くて、悔しいけどティトレイはかっこよくて、背も高い。
それに比べてボクは…


そこまで考えて、ボクはフルフルと嫌な考えを振り払うかのように頭を振った。
そして、黙ってその場を後にした。







「いただきます」


あれから数時間後、宿屋のレストランで食事をとる。
だけどボクの機嫌は悪いまま。いつもお喋りなボクが黙々と食べ続けているため、何かあったのかとみんなが心配してくる。


「マオ、何か悪い物でも食ったのか?」
「…なんでもないよ、ヴェイグ」
「でも様子がおかしいぞ?大丈夫なのか?」
「何でもない」
「マオ…どうか、したの?」
「ーっ!何でもないって言ってるじゃん!しつこいなあ!」



名前に問われた瞬間、ボクの怒りは頂点に達した。
ギッと名前を睨むと瞳を揺らがせて戸惑う彼女の姿。そんな彼女を見ていられなくて、視線をそらす。…ただのやつ当たりだ、かっこわるい。

居心地が悪くなって、ガシャンと手に持っていたフォークを行儀悪く置くと、ボクは走って食堂を後にした。みんながボクを呼ぶ声が聞こえたけど、それを全部無視して、ボクは自室へと走った。








10分後、布団にこもっていたらドアを控えめに叩く音がした。そして「マオ、入っていい?」と声がした。…名前だ。
ボクが反応せずにいると、名前が「じゃあ、ここで話すね」と元気のない声で言う。ボクはぎゅっと布団を握り締める。…格好、悪いな。


「あのね、マオ。私、何かしたかなって考えたの。でも、わからなくて…、…私が無意識に、マオを傷つけちゃったのかなって思ったら、すごく悲しくて」
「……」
「マオに嫌われるって思ったら、すごく、悲しくて…」
「!」

名前の声が震える。そこでボクはハッとなって、ベッドから抜けだしドアを開ける。
そこには身体を震わせて、目に涙を溜めた#名前#がいた。ああ、ボクは何をしているんだ!

咄嗟に彼女を抱きしめて、ごめんね、ごめんねと繰り返す。すると、彼女の両腕がボクの背中に巻きついた。


「マオ、嫌っちゃイヤだ…マオがいないと、私…」
「名前、#名前#は悪くないんだ。ボクが、嫉妬なんてしたから…!」
「嫉妬…?」
「ごめんね、ボク、ティトレイと仲良くしている名前を見たら、イライラしちゃって…。ボクのほうが名前と、名前を…」


そこまで言って、思う。ボクが、軽々しく名前を知ってる、ボクのほうが#名前#と仲が良いなんて言っていいのか?
もし、彼女がボクよりティトレイのことを好きだったら?そう考えると、悲しくて仕方ない。もしそうだったら、ボクは潔く身を引こう。

すると、名前がボクの両手を取る。そして、話し始めた。



「…ティトレイも、大事。友達だから。…でもね、マオは大事な中でも、特別なんだよ。マオは、ずっと私の味方でいてくれた。私、すごく嬉しかったよ」
「…名前」
「嫌な思いさせちゃってごめんね。でも、私はマオが大好きだから」



ボクの手を優しく握りながら微笑む名前。ああ、心臓の音が煩くてかなわない。
そしてボクは立ちあがる。「ねえ、#名前#。着いてきてほしいところがあるんだ」目的地は先ほど名前を案内しようとした花がある場所。「うん、行きたい」と#名前#は可愛らしく笑った。ああ、やっぱり好きだな、と改めて実感する。



ごめんねティトレイ、やっぱり譲れないや。





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泉さんのみお持ち帰りokです






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