とある宿で一晩泊まることになった。
生憎今日は予算の都合上一人部屋ではなく、男女分かれて4人4人で二部屋ということだった。

それはいいのだが、先ほどから兄さんはいないし、リチャード陛下とマリク教官はワケの分からない話を繰り広げていた。(実際には下ネタというものだが、ぼくには理解しがたい話なのであえてワケのわからないと称そう)
とにかくだ、彼らの猥談に付き合っていられない。少し散歩でもするか…そう思い、ぼくは宿屋の外に出た。



しばらく進むと海の見える浜辺が見える。夜なので人もあまりおらず、静かに過ごすにはちょうど良い場所かもしれない。
軍服のポケットに入れていた文庫本を取り出し、読み始める。…しばらく読み続けていたのだが、近くの岩陰から何やら声が聞こえてくる。…この声は…、いや、でもまさか…

嫌な予感がしたが、見過ごすわけにもいかず。…ぼくはそっと岩の影から向こうを覗いた。




「っ…!」


そこにいたのは、兄さんとぼくの恋人であるはずの名前。こんな夜中に二人きりで、こんな岩陰で何をやっているんだ…!?
ぼくは慌てて彼らの前に顔を出すと、二人とも驚いたようにぼくを見ていた。ぼくはすぐに彼女の手を取り立ち上がらせる。そして兄さんをキッと睨んでそのままその場所を後にした。






「ちょ、ちょっと待ってよヒューバート!」
「……」
「何で怒ってるの?というか、アスベル置き去りにしたままなんだけど…!」
「……」
「ちょっといい加減にしてよ!」
「いい加減にするのはそっちの方なんじゃないんですか!?」


ぼくが怒鳴ると名前の肩がビクリと揺れる。いい加減にしろ?それはこっちの台詞だ。ぼくがいながら、他の男と夜に二人きりだなんて…無防備にもほどがある。


「兄さんと、何してたんですか」
「何って…ちょっと話をしていただけだよ」
「こんな夜中に、あんな人気の無い場所で、ですか?」
「…だって」
「…浮気でもしていたんですか?」
「違う!」
「じゃあ、じゃあ理由を教えてくださいよ!」


それは…と言葉に詰まる名前。…やっぱり浮気じゃないか、と洩らすと#名前#が慌てて首を横に振る。
そして、顔を真っ赤にしながら話しはじめた。


「ヒューバートのこと、聞いてもらってたの」
「え…?」
「…ヒューバートのこと、一番知ってるのはお兄ちゃんのアスベルでしょ…?」
「ぼくの、ことを?でも…一体…」
「…これ…言うの、本当に恥ずかしいんだからね。…だから、私言いたくなかったのよ」


名前はそこまで言うと、真っ赤な顔を隠すようにぼくの胸に顔を押し付ける。


「ヒューバートが、いつまで経ってもキス…してくれないから、いい方法は無いかって、アスベルに聞いてたの!」
「え…?」
「もう、二度も言わないんだからね!」


段々自分の顔も彼女と同じように赤くなっていくのを感じた。い、今彼女は…なんて?ぼくと、キ、キス…?
すると彼女がぼくの顔を見て、だから言いたくなかったの!とグチグチ言い始める。

いつもより余裕のない名前。それがなんだかとても可愛らしくて、ぼくは彼女の頭を優しく撫でる。



「そもそも、相談する相手を間違えていますよ。兄さんは恋愛ごとには疎いですし、良いアイディアなんてもらえないと思いますが」
「え、でも…、ヒューバートのことはよく知ってるかなって…」
「なら、もっと適任がいるじゃないですか」
「誰?」
「目の前に」


ぼくはそう言うと、彼女のぷくりとした唇に自分の唇を重ねる。
触れるだけで離れたぼくら。彼女は耳まで真っ赤になっていた。






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ユイさんのみお持ち帰りokです



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