最初はこんな人だって知らなかった。

アンマルチア族の私は、友達のパスカルに着いて世界を回っていた。
ウォールブリッジの近くでアスベルたちと出会ったとき、素敵な男性に出会った。優しくてかっこよくて強くて…。…リチャードだ。
彼はウィンドル国の王子だけど、私たちに優しくしてくれて…すごく素敵な人だった。色んなことがあったけど、最後はハッピーエンドだったし、めでたしめでたし…と思っていたんだけど…


「名前、紅茶を淹れてくれないか」
「な、なんで私が…」
「おや?…何か言ったかな?」
「い、いいえっ!何も言っていないですっ!」

…半年後、再び旅をすることになった私たち。
リチャードも一緒…ということで、浮かれていた私だったが…
リチャードはまるで人が変わったように私を扱き使い、扱き使い扱き使い扱き使いまくってきたのだ。
本当に突然だったので、リチャードのいい人格しか知らなかった私は戸惑った。…いや、今はもう慣れたんだけどねあはは。

「ねえ、まだかな?」
「ただいま持っていきますうあっちいっ!」

焦って淹れていたからお湯をこぼしてしまった。すると、リチャードはハッと笑って私を見下したような顔で見てきた。

「何してるんだい?」
「いや、何もしてないです」

とりあえずこぼれた湯をそのままにして、紅茶を淹れてリチャードに渡すとギロリと睨まれた。

「床が汚れている部屋で僕に紅茶を飲めというのかい?」
「ううっ、ごめんなさいすぐ拭きますごめんなさい」

すぐに雑巾を持ってきて拭くと、リチャードに強い声で呼ばれる。…今度は何さ。

「君がちんたら拭いてるから、紅茶が冷めちゃったよ。淹れなおせ」

おい、どうしろと。
何だか段々腹が立ってきた、雑巾をリチャードに投げつけ、お下品だけど立てた中指をリチャードに向け、部屋から出て行った。
うざいうざい、何なの!シェリアに愚痴ってやる!ということでシェリアの部屋に向かったんだけど…


「ふふっ、さすがにそれは…冗談でも、無理があるわよ?名前」
「だから冗談じゃないんだよーっ!」
「だってあの穏やかなリチャード陛下が俺様だなんて…」
「シェリアさん、入ってもいいかな。ここに名前がいると聞いて来たんだけど…」
「げっ!」
「あら、噂をすれば…ってやつね」

何故ここにいるのが分かったんだ!?というかシェリア入れるな!ヤツを入れるなっ!
だがそんな私の願いもむなしく、シェリアはリチャードを部屋に入れてしまった。
しかも挙句の果てには「私お邪魔かしら?」なーんて言いながら部屋から出て行きやがった!畜生!

するとリチャードは先ほどの人のよさそうな笑顔から一転、無表情になり私のほうへ寄ってきた。

「さっきはよくも雑巾なんて投げてくれたね」
「だ、だって…」
「だって?僕に口答えをするのかい?」
「…っ!なんでリチャードは私にだけ酷いの?」
「酷い?」
「酷いよっ!みんなには普通なのに、なんで私にだけ命令してきたりするの?」
「じゃあ君は、僕にみんなと同じように接してほしいのかい?」
「当たり前じゃない!」
「…そう、君がそう言うのなら仕方ないな」
「…へ?」

え、今のどういう意味?と、呆けているとリチャードは悲しそうに笑いながら言った。

「僕は君のことが好きだから、君には特別…みんなに接する態度とは違った態度で接していたんだけど…」

君は嫌だった見たいだね…悲しそうに発せられた言葉。
私の胸はキュンとした。告白…されたのだ。それに、特別…って…
以前リチャードに抱いていた恋心が蘇ってくるのと同時に、私はリチャードに抱きついていた。


「ごめんなさい、リチャード!私リチャードがそう思ってくれているなんてしらなくて…」
「名前…」
「私もリチャードが好きだよ!特別って言われて、嬉しかった」
「そうか…僕も嬉しいよ」

リチャードも抱きしめてくれて、これで晴れて恋人同士…なんて思っていたら、背中に回ったリチャードの腕の力が急に強くなっ…た?

「特別が嬉しい、か…。じゃあこれからも特別に接するよ」
「へ?」
「特別が嬉しいんだろう?今まで通りの接し方でいいってこと、だよね?」

リチャードがニヤリと笑いながら私の腕を拘束する。…え?どういう状況?

「リ、リチャード?」
「じゃあまず…雑巾を投げて僕を汚したことについて、お仕置きしないといけないね…?」

ガチャリとシェリアの部屋のドアの鍵を閉めたリチャード。え、え、え、え…?



ここから先のことは、まあご想像の通り。
夜、夕食に出たときのゲッソリした私とキラキラしたリチャードの顔は、誰から見ても正反対だっただろう。





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樗杞さんのみお持ち帰りokです

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