突然の雨


買出しを任されていた私は、運よく店の中にいたのだけれども…本当に運が良かったのかどうか。
出かけたときは晴れていたから傘なんて持ってきていなかったし、仲間の誰かが迎えにきてくれるっていうのも望みが薄い。なぜなら、道具屋での買い物はもうとっくに終わっているからだ。今は自分の買い物をしてる…イコール、このお店に私がいるってことを誰も知らない。…自分の買い物をしなかったら、道具屋で迎えを待つことが出来たのに…いや、その前にまっすぐ帰っていたら雨に降られずにすんだんだよ…。

あー、とにかく後悔したって遅いよね。
グミとかボトルとかを濡らすわけにはいかないから、走って帰るわけにもいかないし…困ったなあ。
とりあえず雨がやむまで待つしかないよね…、そう思いお店の窓から外を見る。


「あ、あはは…止みそうにないな…」

ううーん、どうしようかな。チラリと時計を見ると、買い物に出かけてから結構な時間が経っていた。…お店が閉まるまで、まだ少しあるけど…今日中には止みそうにないよなー…、これは濡れて帰るしかないのかな…。
考え込んでいると、ドアについていたベルがカランカランと音を立てて鳴った。振り返ると、ヒューバートが立っている。…ん?


「名前っ!まったく、やっと見つけましたよ…!」
「え、ヒューバート?でも、いや…そんなまさか…夢?」
「夢じゃありませんよ!…まったく、何で寄り道なんてしたんですかっ!」
「夢だよね…いや、来てくれたのは嬉しいんだけど、でも都合が良すぎるよね…。うん、じゃあやっぱり夢だわこれ」
「だから夢じゃないと言っているでしょうがっ!」

雨に濡れた手で私の頭をバシンと叩いてくるヒューバート。まったく、酷いよ…って、あれ…感触があった。

「何で?」
「…だから先ほどから何回も言っているでしょう。夢じゃありませんよ。…ほら、分かったら帰りましょう」

ヒューバートに手を引かれて店の外に出ると、彼はドアの前に立てかけてある青色の傘を広げた。

「さあ、皆さん心配しています。早く帰りましょう」
「あれ?私の傘はないの…?」
「え…あ、当たり前じゃないですか!」
「え…?でも、迎えに来てくれたんなら傘持ってきてくれてるはずだよね…?」
「そ、それは…。っ、…せ、せっかく人が迎えに着たのに文句をつける気ですか?」
「いや、そんなわけじゃないよ!ただ、なんとなーく気になってさ」
「ならいいでしょう!ほら、さっさと行きますよ!」

何故だか耳が真っ赤なヒューバートを疑問に思いながらも、彼の差す傘の中に入れてもらった。
一人では十分な広さな傘だったけど、二人になるとちと狭い。しかもヒューバートは細そうに見えて意外とマッチョだから、尚更だ。

「あのー、ヒューバート…ホント、私出るよ?袋だけ濡れなきゃいいんだしさ」
「それでは迎えに来た意味がありませんよ」
「だけどさ、ヒューバート…肩濡れてるよ?」
「…仕方、ないですよ」
「じゃあさ、私がもうちょっと外側に寄るからさ。そしたらヒューバートは濡れずに済むよ?」
「…あなたという人は…、少しは男の気持ちも考えてくださいよ」
「男の気持ち?何それ?」
「…はあ、もういいです。場所はこのままでお願いします」
「えー、なんで」
「あなたが濡れたら、困るからですよ」

ぎゅっと手が握られた。そういえば、お店から繋ぎっぱなしだったなー、なんて。あ、そうだ。

「ねえ、ヒューバート。じゃあ外側には寄らないから…もっと内側に寄ろうよ」
「…?どういう意味です」
「だからさ、もっと私たちが密着したら濡れずに済むんじゃないのかなーって」
「なっ!な、な…!」
「ほら、みっちゃーくっ!」

ヒューバートと繋いでいた手を一度解き、そして彼の腕にそれを絡ませた。急なことで驚いたのか、ヒューバートの持っていた傘がぐらりと揺れて傘の上に溜まっていた雨水が頭の上にたらたらと垂れてきた。

「ちょっとヒューバート!ちゃんと傘持ってよー!」
「ち、近いですよっ!」
「宿屋までの辛抱だよ」
「そういう問題ではありませんっ!」
「もうー、早く帰るんでしょ?立ち止まってないで行こうよっ!」
「…っ、もう好きにしてくださいっ!」


しとしと雨が降る中、ヒューバートと二人で宿屋までの道を歩く。…その道のりはあっという間で、もう宿屋が見えてきた。うーん、なんだかもったいないなあ。…あ、そうだ。
私はヒューバートの袖を引っ張り、彼の耳元に近づく。


「ね、ヒューバート。せっかくだからもうちょっと散歩しようよ」


少し驚いた顔をした彼は、顔を少しだけ赤くしてコクリと小さく頷いた。





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明月さんのみお持ち帰りokです

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