今思えば不覚だった。こいつと二人きりになるなんて…
異界の楽園に来たのはいいけど、道が複雑で迷いやすいなんて知らなかった。
シャトルで酔ったらしいリチャード介抱するために、アスベルたちに先に行ってもらった。彼の酔いがさめて、いざ出発!ってなったんだけど、道複雑。わけわかんない。途中になんか熊がいるし、もうなんなのここ。
「あーやばい迷った」
「そうだね」
「通信機とかあればいいのに…携帯が必要だよね、この世界にも」
「携帯ってなんだい?」
「あーこっちの話。それよりどうしよう、なんかでかい花があるしここ怖い」
「もし何かが襲ってきたら僕が名前を守るよ!」
「もしあの花に食われそうになったらリチャードを差し出そう。そして私は逃げよう」
「ヒドイよ名前!」
まあとにかく道なりに進んでいると、パンくずに虫が集っていた。…え、なにこれキモい。
パンくずは向こうの方へと点々と続いていた。…え、なにこれ。
「もしかしてヒューバートあたりが道に迷っちゃいけないからパンくずを落としていってくれたんじゃないのかな」
「いや…まあ、ありがたいけど…もっと何も集らないものにしてよ…なんか見るたびに気持ちが悪くなってくるよ…」
「ところで名前、このままこれを辿って進むのかい?」
「いや、正直遠慮したいけど追いつかなきゃいけないし…」
「…名前」
リチャードが立ち止まり、私の方を真剣な眼差しで見てくる。…え、なにこれ怖い。
「ど、どうしたの?リチャード」
「…せっかく二人きりになれたんだよ。なのに…君はみんなの下へ行きたいのかい?」
「いや、当たり前だけど…」
「せっかく恋人の僕と二人きりになれたんだよ!」
「いや…まあ久しぶりだけどさ」
最近は何かと忙しくて二人きりになれる時間なんてなかった。なかったけど、そんな場合じゃないでしょう。
「はあ…冗談はよし子さん。さっさと行くよ、虫にパンが食いつくされる前に」
「名前!」
リチャードは私の腕を無理矢理掴み、木に押し付けた。…いや、ホント何なんだよ。とりあえず抵抗する。
「抵抗しても無駄だよ!せっかく二人きりになれたんだから、ちょっとイチャイチャしても誰も怒らないよ!」
「いや、絶対ヒューバートあたりは怒るよ」
「僕と二人きりの時に他の男の名前出さないでよ!なに?なんなの、嫉妬させるつもり?」
「…(面倒くせえ)」
「聞いてるの?名前!」
なんだよ、珍しく本気かよ…と思いながらリチャードを睨みつけると、彼の鼻から赤い液体が流れていた。…え、
「ど、どうしたのリチャード…鼻血が…」
「ふふ…ごめん。いや、ちょっとこの無理矢理な体勢がね、興奮するなーと」
「こ、興奮…?」
「そう、興奮。もちろんそういう意味で」
そう言いながらスカーフで鼻血を拭くリチャード。いや、ハンカチとかで拭けよ。いやその前に!
どんどん近寄ってくるリチャード。力の差で私が抜け出すことも出来ず…
色々終わってみんなに追いつくとヒューバートに叱られた。…もうやだ。