僕は負けた。
ラムダとも分かり合うことができなかった。アスベルたちにも酷いことをしてしまった。世界中の人たちに酷いことをしてしまった。だけどみんな許してくれた。…分からない、何故僕を簡単に許してくれるんだ?それをアスベルたちに聞くと、みんなお前のことが好きなんだよ、と言ってくれた。だけど僕は納得できなかった。
一人で悩んで、誰かに言うわけでもなく、僕はずっとそれを心の中に溜めて過ごす。みんなが優しいのは分かっている。だけど、それじゃあ納得できないんだ。僕はこれからどうすればいいのだろうか、どうしたら…いいのだろうか。
僕は何日間か城の自室に閉じこもった。ここにいても、何にもならないことなんて承知の上で。…僕は

ある日名前が尋ねてきた。多分僕が城に閉じこもっているという噂を聞いてやってきたのだろう。彼女は情報通だから噂なんてすぐに手に入れられる。

「リチャードやっほー」
「…ごめん、今は楽しく話をする気になんてなれないんだ」
「うーん。じゃあ楽しく話はしないから部屋に入れてよね」
「入っていいよ。紅茶でいいかい?」
「あ、お構いなくー」



「リチャードお湯お湯!」
「へ、あ…熱っ…」
「もうぼーっとしちゃって。ほら、ヒール」
「…ありがとう…」

なんという事だ。
呆けていて自分の手にお湯をかけてしまうとは。もう重症だ、なんて他人事のように思う。
名前が僕を治療してくれると、傷が塞がった。

「リチャードはヘマしなさそうなのにね」
「…僕だって、ヘマくらいするさ。僕は何もできないんだ…今も、昔も…」
「…そう思ってるんだったらさ、やったら?」
「やったらって、…今更何を…」
「何もできないって決め付けるんじゃなくてさ、何かやらないと」
「…何かを、やる」

「リチャードなら出来るよ。不安だったら私がいる。アスベルがいる。みんながいる。いつだって友だちだから、頼ってよね!」
『じゃあ今日から友だちだね!友だちとは何か知らないリチャードに教えてあげる!私とリチャードはいつだって友だちだから、頼ってね!』

「…あ」

幼い頃初対面の名前に言われたこの言葉。やっと思い出せた、やっと思い出した。

「やーっと思い出したかボケ」
「…ふふっ、本当に僕は…君の言う通りボケ…だったのかもしれない」
「さーて、これからやることはたくさんだよ!」
「そうだね。…頑張るよ」


きみは変わらない笑顔で、今も昔も僕に呼びかけてくれていたんだね。


その後、僕は暴星魔物を兵士たちと共に第一線で退治することを決意した。
これが全て終わったら、次は助けてくれた大事な仲間…それに、名前のために、僕が出来ることを探していこう。



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